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物基11 自由落下

鉛直軸

 自由落下を学ぶにあたって、自然に使えて当たり前となる用語の確認をしておきます。

 

 当たり前な話ですが、物体は手を離すと、重力を受けて下に落ちます。ところが、みなさんが「下」だと思っている方向は、厳密には「真下」とは限りません。

 

 重力は地球の中心に向かって働いています。この力は「万有引力」といいます。ところが同時に、地球は自転もしているので、地表にあるすべての物体は、遠心力を受けて宇宙の方へ飛んでいこうとしています。

 

 この2つの力が同時に働くので、力の合力を作図してみましょう。日本がある北緯35°付近では重力は少しだけ南向きに働いているのが分かります。

 

 この向きは、地表に対して垂直ではありませんので、名前を変えてやる必要があります。そこで登場する方向が「鉛直」と呼ばれるものです。

 

 おもりとして鉛を糸にくくりつけて吊るすと向く向きを「鉛直下向き」と呼び、その逆向きを「鉛直上向き」と呼ぶことにします。

 

 北極、南極と、赤道では、鉛直方向と垂直方向が一致しますが、日本であれば鉛直方向は、やや南向きになりますので、日本にある、ありとあらゆるものは、やや南向きに傾いています。

 ほら、外の光景を確認してみてください。街が丸ごと斜め向きになっているのが分かりますね。

 

 嘘です。肉眼では分からないと思います。

向きと方向

 勘違いしやすいことに、「向き」と「方向」は違う用語です。

 「向き」とは、考えている軸の片側を示し、「前向き」「北向き」のように使うのに対して、「方向」は考えている軸の両側を示し、「上下方向」「南北方向」のように使います。

 

 よく、日常の先入観や感覚で、「鉛直方向」とか「進行方向」と書く人がいますが、「鉛直方向」だと上なのか下なのか確定していませんし、「進行方向」も前か後ろかが決まっていません。

 

 正確には、「鉛直下向き」とか「進行方向の前向き」というように使うのがいいですね。

 

 日常の慣例として、「向き」を「方向」で言い換えてしまうことがあるので、「南向き」を「南方向」としても違和感がありません。でも「南北方向」を「南北向き」というと違和感があるでしょう。

 本来、別の用語ですから、違和感があって当然なんです。

 

▼向きと方向

 向き:軸の片側を示す

 方向:軸の両側を示す

 

自由落下

 英語ではfree fall(フリーフォール)です。手を離すと、重力を受けて初速度\(0m/s\)で動き出し、鉛直下向きに物体が加速しながら落下します。

 

 このとき、重力による加速度を「重力加速度」といい、およそ\(9.8m/s^2\)の大きさと考えます。

 重力加速度は正確な値は、緯度によっても異なりますし、標高によっても異なりますが、四捨五入しさえすればだいたい地球のどこでも\(9.8m/s^2\)と解釈してよさそうです。

 

▼重力加速度の大きさ

 \(g=9.8m/s^2\)

 

 

 自由落下も加速度運動の一種ですので、等加速度運動の3公式さえ覚えておけば、ちょっと公式を加工するだけで、自由落下バージョンの公式に作り変えることができます。

 

 公式加工のポイントは次の通り。

① 初速度\(v_0=0\)とする

② 加速度は\(a\)の代わりに\(g\)を用いる

③ 変位は\(x\)の代わりに\(y\)を用いる

④ 鉛直下向きに動き出すので、鉛直下向きを正とする

 

すると、等加速度3公式は

 \(v=v_0+at\)

 \(x=v_0t+\displaystyle\frac{1}{2}at^2\)

 \(v^2-v_0^2=2ax\)

 

から

 

 \(v=gt\)

 \(y=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)

 \(v^2=2gy\)

 

と書き換えられます。あとは、等加速度直線運動のときと使い方や使い分けは全て一緒です。

なので、この公式は「覚える公式」ではなく、「作る公式」です。

 

物理には、このように「作る公式」がいくつも出てきますので、全ての公式を暗記するのではなく、公式の意味をつかんでいれば、覚えることを最小にしたまま、適用できる問題を幅広くすることができます

 

これが、物理の勉強でいう「質を高める」ということですので、出来るだけ公式を作れるように意識を向けておきましょう。