鉛直軸
自由落下を学ぶにあたって、自然に使えて当たり前となる用語の確認をしておきます。
当たり前な話ですが、物体は手を離すと、重力を受けて下に落ちます。ところが、みなさんが「下」だと思っている方向は、厳密には「真下」とは限りません。
重力は地球の中心に向かって働いています。この力は「万有引力」といいます。ところが同時に、地球は自転もしているので、地表にあるすべての物体は、遠心力を受けて宇宙の方へ飛んでいこうとしています。
この2つの力が同時に働くので、力の合力を作図してみましょう。日本がある北緯35°付近では重力は少しだけ南向きに働いているのが分かります。
この向きは、地表に対して垂直ではありませんので、名前を変えてやる必要があります。そこで登場する方向が「鉛直」と呼ばれるものです。
おもりとして鉛を糸にくくりつけて吊るすと向く向きを「鉛直下向き」と呼び、その逆向きを「鉛直上向き」と呼ぶことにします。
北極、南極と、赤道では、鉛直方向と垂直方向が一致しますが、日本であれば鉛直方向は、やや南向きになりますので、日本にある、ありとあらゆるものは、やや南向きに傾いています。
ほら、外の光景を確認してみてください。街が丸ごと斜め向きになっているのが分かりますね。
嘘です。肉眼では分からないと思います。
向きと方向
勘違いしやすいことに、「向き」と「方向」は違う用語です。
「向き」とは、考えている軸の片側を示し、「前向き」「北向き」のように使うのに対して、「方向」は考えている軸の両側を示し、「上下方向」「南北方向」のように使います。
よく、日常の先入観や感覚で、「鉛直方向」とか「進行方向」と書く人がいますが、「鉛直方向」だと上なのか下なのか確定していませんし、「進行方向」も前か後ろかが決まっていません。
正確には、「鉛直下向き」とか「進行方向の前向き」というように使うのがいいですね。
日常の慣例として、「向き」を「方向」で言い換えてしまうことがあるので、「南向き」を「南方向」としても違和感がありません。でも「南北方向」を「南北向き」というと違和感があるでしょう。
本来、別の用語ですから、違和感があって当然なんです。
▼向きと方向
向き:軸の片側を示す
方向:軸の両側を示す
自由落下
英語ではfree fall(フリーフォール)です。手を離すと、重力を受けて初速度\(0m/s\)で動き出し、鉛直下向きに物体が加速しながら落下します。
このとき、重力による加速度を「重力加速度」といい、およそ\(9.8m/s^2\)の大きさと考えます。
重力加速度は正確な値は、緯度によっても異なりますし、標高によっても異なりますが、四捨五入しさえすればだいたい地球のどこでも\(9.8m/s^2\)と解釈してよさそうです。
▼重力加速度の大きさ
\(g=9.8m/s^2\)
自由落下も加速度運動の一種ですので、等加速度運動の3公式さえ覚えておけば、ちょっと公式を加工するだけで、自由落下バージョンの公式に作り変えることができます。
公式加工のポイントは次の通り。
① 初速度\(v_0=0\)とする
② 加速度は\(a\)の代わりに\(g\)を用いる
③ 変位は\(x\)の代わりに\(y\)を用いる
④ 鉛直下向きに動き出すので、鉛直下向きを正とする
すると、等加速度3公式は
\(v=v_0+at\)
\(x=v_0t+\displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
\(v^2-v_0^2=2ax\)
から
\(v=gt\)
\(y=\displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)
\(v^2=2gy\)
と書き換えられます。あとは、等加速度直線運動のときと使い方や使い分けは全て一緒です。
なので、この公式は「覚える公式」ではなく、「作る公式」です。
物理には、このように「作る公式」がいくつも出てきますので、全ての公式を暗記するのではなく、公式の意味をつかんでいれば、覚えることを最小にしたまま、適用できる問題を幅広くすることができます。
これが、物理の勉強でいう「質を高める」ということですので、出来るだけ公式を作れるように意識を向けておきましょう。