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ラプラスの悪魔

 科学の進歩に従って,それまで説明できなかった自然界の不可思議な出来事が科学的に説明できる時代がおとずれた。1543年には地動説,1609年にケプラーの法則が発見されるなどして,自然哲学の中から天文学の分野が花開いた。その後,ニュートンの登場によって1687年には物理学が新たな学問として登場した。

 

 ニュートン力学の完成度は非常に高く,その後数百年たったのちでも誤りが見つからない。運動の初期条件が判明すれば,自動的に,何秒後にどの位置にどのくらいの速度で運動するのかが予知できるようになった。この意味でニュートンの運動方程式は,未来を予知する「未来方程式」である。ニュートンの発見から時代が過ぎた1812年,天文学者のラプラスは次のような主張をした。

 

「もし,ある瞬間のすべての物体の初期条件が分かり,かつ,それを計算するだけの知性があれば,未来のすべてのことはわかるであろう」

 

 後世,この「知性」をもつ全知全能の存在がいると言われ始め,数学者や科学者の間で「ラプラスの悪魔」と呼ばれるようになった。

 

 当初,世界のすべての物体について立式し連立すれば,未来のどの瞬間の事柄も予測できるとされ,神は科学へと姿を変えた。これ以降キリスト教では,「未来を決定する神」の存在は薄れていき,「創造主は存在するか」という議論に変遷していった。

 

 神にしかできない仕事は科学に変わり,科学者の仕事は年々増え続けている。人類が努力すればするほど,神にとっても働き方改革がなされ,楽になっているようである。

 

 1927年,Heisenberg(ハイゼンベルグ)により不確定性原理が提唱され,2012年には小澤不等式により,未来が決定できないことが実証された。人類も負けてはいない。神にはもう少しの時代だけ頑張っていただきたい。

 

ラプラスの悪魔は,今では存在しないことが証明されている。