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物基31 熱と熱量

熱運動とブラウン運動

 「熱」の分野に入りましたが、そもそも「熱」とは何でしょうか。

物質は、原子や分子などから構成されています。これらの粒子は、たえず激しく運動していて、この一つ一つの粒子が持っている運動エネルギーの合計量から熱の程度を決めています。

 この運動のことを熱運動と言います。よく、原子分子の振動によるものだから、といって熱振動と答えてしまう人がいますが、ここでは運動エネルギーによる運動学について話しているので、熱振動ではなく熱運動と間違えずに覚えておきましょう。

 

 熱運動とよく似た用語に、ブラウン運動という言葉もあります。花粉が水中に落ちて、花粉が破れて内部の細胞小器官やらなんやらが水中に巻き散らかされたとします。この、花粉内の微粒子を顕微鏡で観察してみると、とてもランダムな動きをしていることが発見された。もしかしたら花粉の細胞内にある粒子は花粉とは別の生物なのかもしれない。ところが、このランダムな運動は明らかに生物ではないと考えられるものにも見られるわけです。例えば線香の煙のようなもの。線香の煙は、拡大してみると単なる灰ですから生き物であるはずがない。ところが、花粉からあふれた微粒子と同じようにランダムな動きをするわけです。

 

 

▼熱の正体

熱運動:原子や分子そのものの運動

ブラウン運動:原子や分子が微粒子に衝突することで起きるランダムな運動

 

ブラウン運動の原理の解明

 

 科学者ブラウンは、理由はわからなかったけれども、それでもこの不思議な運動が起きているのは起きているんだ、ということでとりあえず名前だけ付けておいた。1827年のことです。実は、この仕組みは非常に単純な理由から成り立っていることが1905年アインシュタインによって発見されました。アインシュタインによると、花粉内の微粒子にせよ線香の灰の微粒子にせよ、水分子や空気中の気体分子が微粒子に当たることによって起きているだけの現象だと説明されたわけです。

 

 ちょっと補足すると、アインシュタインによって理論的に説明されたのであって、アインシュタインが実際に観測したわけではありません。原子は大きさで言うと\(10^{-10}m\)ほどであって、光の波長\(10^{-9}m\)より、なお小さいものです。なので、たとえ光学顕微鏡をどれだけ精密に作っても、接眼レンズや対物レンズの倍率や数を変えても、原理上、光の反射を利用する顕微鏡では見ることができません。原子レベルのものを観察するには電子顕微鏡が必要ですが、これは1931年にルスカが開発するまでは存在しませんでしたから、アインシュタインは観測することなく理論的な説明を矛盾なく提唱したわけですね。ちなみにルスカは電子顕微鏡の開発で1986年にノーベル賞を受賞しています。

 

 アインシュタインのそのほかの業績からすると些細な発見かもしれませんが、さらっと100年来の謎を解き明かしてしまうあたり、彼のすごさには脱帽ですね。

 

 ちなみに、よくネットの情報や古い参考書などの中に、「花粉が不規則な運動をすること」としてブラウン運動の説明を取り上げてあったりしますが、花粉そのものはかなり大きいですので、水分子の衝撃が平均化されてしまって、動くことはまずないと思います。あくまで花粉内の微粒子の話です。微粒子だと衝撃が平均化されることなくプルプルと動いて見えます。

 

温度

 温度とは、熱運動の程度を分かりやすく表したもののことを言います。日本で使っているものは、摂氏温度(セルシウス温度)と言われる、単位が「℃」の温度です。アメリカだと華氏温度(ファーレンハイト温度)と言われる「℉」を単位とする温度が普通です。「℃×1.8+32=℉」という公式がありますが、物理では特に使うことはありません。0℃=32℉です。

 

 熱の正体は熱運動によるものでした。なので、高温にする分には原子や分子の速さをどんどん速くすることができるので、上限は果てしなく高くすることができます。(と言っても光速まででしょうけど)

 

 一方で、低温にする分には、熱運動を遅く遅くしていかなければいけませんが、なんと-273.15℃まで下げると熱運動が停止してしまうと考えられています。考えられています、というのは、実際に作り出したわけではなく、理論上類推すると、そこが終わりだろう、ということです。実際には人の手では作り出すことはできないことが法則化されています(熱力学第三法則)

 

 気体は温めると膨張する性質があります。この程度をはかると、1度温度上昇させるごとに体積が273.15分の1だけ大きくなることが知られています(シャルルの法則)。ということは、逆に、冷やしてやると273.15分の1ずつ小さくなっていき、やがて理論上大きさがなくなってしまう点が存在することになります。ここを熱運動が決して起こりえない点、とするわけです。

 

 下限値があるなら、そこを0としてしまえばいいじゃないか、ということで、改めて「0K」とした温度を絶対温度といいます。また、絶対温度のゼロ値のことを絶対零度と言います。単位の読みは命名者のケルビン卿に由来して「ケルビン」と読みます。ちなみにケルビン卿はあだ名であって、本名はウィリアム・トムソンと言います。ケルビンというのは単にトムソンの研究室の近くにあった川からつけた名前であって、本名とは直接的には関係がありません。

 

 ケルビン温度(絶対温度)とセルシウス温度(摂氏温度)は単に数値を付け替えただけの関係なので、1度の幅は変わりません。換算するときは273.15だけ数値をずらせばいいだけの話です。が、小数点下の「.15」は有効数字で言うと4桁目と5桁目に相当します。こんな細かい所まで計算で持ち出すことはほとんどありませんから、今、話をする上できちんとした値で説明しましたが、実際にテストで解くときには273度差ということまで覚えておけば十分です。「.15」を含めて計算したとて四捨五入で消えてなくなるでしょう。0℃なら273K、100℃なら373K。そして-273℃なら0Kですね。ケルビンにはマイナスがありませんので、計算してマイナスがでたときには換算する向きを間違えているんだと思います。必ず℃よりもKのほうが値が大きいですので、注意してください。

 

▼絶対温度の換算

K=℃+273