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2002京大Ⅲ

■ドップラーソーダ観測

ドップラーソーダ観測という技術がテーマです。気象レーダーにも利用されていて、ゾンデ(気象観測用の気球)を飛ばさなくても上空の大気の温度を測定できる優れものですね。

ただ、万能な技術ではなく、雨と雪の境界で変な反射が起きてしまって、レーダー施設を中心に環状の降水域が表示されてしまったり、そもそも山に隠れて山の後方は測定できなかったり、そういった問題点は処々にありますので、いろんな測定法を組み合わせて気象観測を行っているようです。

 

■近似に関する前置き

ある物理の先生と、この問題について議論していると、「この問題は近似をどのレベルで行うかがミソだなぁ」と言っていました。

\((1+x)^a\)において\(x≪1\)であるときに、ほぼ無いも同然だから\(≒1\)にしよう!というのでは、近似が強引すぎますね。

Newton近似とか線形近似一次近似として知られているように\((1+x)^a≒1+ax\)としてやります。

 

大学になってから学習すると思いますが、より正確な展開法があって、\(f(x)=(1+x)^a\)としたとき、

\(f(x)=1+ax+\displaystyle\frac{a(a-1)}{2!}x^2+\frac{a(a-1)(a-2)}{3!}x^3+… (|x|<1)\)

と表すような、Taylor展開もしくはMaclaurin展開と呼ばれる数学的手法があり、このうちの1次までを近似として用いて、2次からは四捨五入したことにしましょうと、そういう操作をしているわけです。

 

簡単に言うと、例えば\((1+x)^2\)において、\(x\)が1より十分小さい\(0.01\)だったとします。これを展開すると、

\((1+0.01)^2=1+0.02+0.0001\)なので、\(1.02\)までは解に組み込んで、それより小さい数字は四捨五入しましょう、ということです。

3乗でも同様に考えると、

\((1+0.01)^3=1+0.03+0.0009+0.000027\)なので、\(1.03\)まで解として、残りは切り捨てましょう、ということです。

 

 

■本題

(ア)

\(v_s=f_sλ_s\) より

\(λ_s=\displaystyle\frac{v_s}{f_s}\)

 

 

(イ)

往復時間が\(t_2\)なので、電波が反射面に達するまでの時間はその半分。よって

\(h=c・\displaystyle\frac{t_2}{2}\)

 

\(h=\displaystyle\frac{1}{2}ct_2\)

 

 

(ウ)

波源固定、電波は上空に速さ\(c\)で進行、観測者(電波)も上空に速さ\(v_s\)で進行しているとして、Doppler効果の式より、

\(f'=\displaystyle\frac{c-v_s}{c}f\)

 

\(f'=\displaystyle(1-\frac{v_s}{c}f)\)

 

\(f'=f-\displaystyle\frac{v_s}{c}f\)

 

\(f-f'=\displaystyle\frac{v_s}{c}f\)

 

ここで、左辺が\(Δf_1\)です。

 

 

(エ)

この問いは、近似のタイミングを見誤ると解がすべて消えてしまいます。1次は残し、2次は落とす、という部分に意識を向けておきましょう。

電波の反射後は、反射電波を音源とみなして立式するのが壁反射Doppler問題のセオリーですね

波源が、上空に速さ\(v_s\)で進行、電波は下方へ速さ\(c\)、振動数\(f'\)、観測者は地上で固定とします。

\(f''=\displaystyle\frac{c}{c+v_s}f'\)

 

\(f''=\displaystyle\frac{c-v_s}{c+v_s}f\)

 

\(f''=\displaystyle\frac{1-\frac{v_s}{c}}{1+\frac{v_s}{c}}f\)

 

\(f''=\displaystyle(1-\frac{v_s}{c})(1+\frac{v_s}{c})^{-1}f\)

 

ここで近似

\(f''≒\displaystyle(1-\frac{v_s}{c})(1-\frac{v_s}{c})f\)

 

\(f''=\displaystyle(1-\frac{2v_s}{c}+(\frac{v_s}{c})^2)f\)

 

ここで再び近似

\(f''≒\displaystyle(1-\frac{2v_s}{c})f\)

 

\(f''=f-\displaystyle\frac{2v_s}{c}f\)

 

\(f-f''=\displaystyle\frac{2v_s}{c}f\)

 

左辺が\(Δf_2\)です

 

 

(エ別)

別の計算過程で導出してみます

\(f''=\displaystyle\frac{c}{c+v_s}f'\)

 

\(f''=\displaystyle\frac{c-v_s}{c+v_s}f\)

 

\(f''=\displaystyle\frac{c+v_s-2v_s}{c+v_s}f\)

 

\(f''=(1-\displaystyle\frac{2v_s}{c+v_s})f\)

 

ここで先に\(Δf_2\)までもっていってしまって、

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c+v_s}f\)

 

\(Δf_2=\displaystyle\frac{\frac{2v_s}{c}}{1+\frac{v_s}{c}}f\)

 

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c}(1+\frac{v_s}{c})^{-1}f\)

 

ここでNewton近似

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c}(1-\frac{v_s}{c})f\)

 

展開して

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c}f-2(\frac{v_s}{c})^2f\)

 

2次以降を落とす

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c}f\)

 

 

(オ)

電波の速さは音速\(v_s\)で上昇する観測者に対しても光速\(c\)に等しい、とあります。これはEinsteinの相対性理論による「光速度不変の原理」を説明したものであって、光速に対して音速がほぼ0であるという近似を用いているわけではありません。光速は観測者が静止座標系であっても運動座標系であっても、いつでも一定です。

 

厳密な話になってしまって、よりややこしくなりそうですが、「この観測者が見る」光速は\(c\)のままで、おそらく問題を解いている人が考えているであろう地点から「この観測者"を"見る」と、観測者が見る光速は\(c-v_s\)のように見えるのではないか、という複雑な事案に行きついてしまいます。

 

この問題は相対性理論を考慮するとどうなるか、なんていう難易度maxの問題ではなく、単純に、音速\(v_s\)で上昇する観測者に届く電波が振動数\(f_1\)、速さ\(c\)です、と書いてあるに過ぎません。

よって(ウ)の値を用いて、 

\(λ=\displaystyle\frac{c}{f_1}=\frac{c}{c-v_s}・\frac{c}{f}\)

 

\(λ=(\displaystyle\frac{c-v_s}{c})^{-1}・\frac{c}{f}\)

 

Newton近似を使って、

\(λ≒(1+\displaystyle\frac{v_s}{c})\frac{c}{f}\)

 

 

(カ)

音波の波長は(ア)で導出したように

 

\(λ_s=\displaystyle\frac{v_s}{f_s}\)

 

なので、往復の行路差が波長の整数倍となればいいわけですね。

よって、

\(\displaystyle\frac{2v_s}{f_s}=nλ\)

 

\(λ=\displaystyle\frac{2v_s}{nf_s}\)

 

 

(キ)

\(n=1\)のときの\(f\)を\(f_0\)として、(オ)=(カ)より

\(λ=\displaystyle\frac{2v_s}{f_s}=(1+\frac{v_s}{c})\frac{c}{f_0}\)

 

\(v_s=(1+\displaystyle\frac{v_s}{c})\frac{cf_s}{2f_0}\)

 

\(v_s=\displaystyle\frac{cf_s}{2f_0}+\frac{cvf_s}{2cf_0}\)

 

\(v_s-\displaystyle\frac{cv_sf_s}{2cf_0}=\frac{cf_s}{2f_0}\)

 

\(v_s(1-\displaystyle\frac{4f_s}{2f_0})=\frac{cf_s}{2f_0}\)

 

移項してNewton近似を使うと、

\(v_s=(1+\displaystyle\frac{f_s}{2f_0})・\frac{cf_s}{2f_0}\)

 

\(v_s=\displaystyle\frac{cf_s}{2f_0}+\frac{cf_s^2}{4f_0^2}\)

 

2次以降を落として、

\(v_s≒\displaystyle\frac{cf_s}{2f_0}\)

 

 

(ク)

音速は\(331.5+0.6T\)で表されることを知っていると思いますが、この値は0℃近傍で成立するだけの近似式であって、厳密な値ではありません。なので、中国の教科書などでは切片331.5の代わりに331.3を用いている資料をよく見かけます。

 

\(0[K](=-273℃)\)ではすべての空気の熱振動が停止して音速ゼロになることを考えると、まあ当たり前といえば当たり前ですけどね。意外と気付いていなかったりしますよね。音速の最大値の方も、理論上は光速でしょうか。いずれにせよ∞ではないですね。

 

で、その音速を近似数式ではなく、きちんと扱って計算させるのが、この問題です。

\(\displaystyle\frac{1}{2}m\bar{v^2}=\frac{3}{2}kT\) より

 

\(\displaystyle\sqrt{\bar{v^2}}=\sqrt{\frac{3kT}{m}}\) なので、\(T\)の\(\displaystyle\frac{1}{2}\)乗に比例します。

 

 

(ケ)

あとは計算です。問題文の誘導に乗っかって(エ)より

\(Δf_2=\displaystyle\frac{2v_s}{c}f\)

 

\(2.00×10^{-6}=\displaystyle\frac{2v_s}{3.00×10^8}\)

 

\(v_s=3.00×10^2[m/s]\)

 

 

(コ)

(ク)より

\(\displaystyle\bar{v^2}=\frac{3kT}{m}\) であるので、\(v\)と\(T\)以外の値をaなりと置いておいて、

270[K]のとき330[m/s]、T[K]のとき300[m/s]なので、

 

\(330^2=a×270\)

\(300^2=a×T\)

 

これを解くと、

\(T=223.14…[K]\)

 

よって

\(T=-50[℃]\)