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単振動1 単振動

単振動

 天井にばねをつけて、その下におもりを吊り下げて振動させます。すると、おもりは上下に振動を始めます。このような運動を「単振動」と呼びます。

 

 この図は運動の一例で「鉛直ばね振り子」と言われるものですが、この単元では、このように往復の運動をする物体について学習していきます。

 

 ほかにも、この図を横向きにした「水平ばね振り子」、催眠術師が5円玉を往復させるような「単振り子」、摩擦のある面でばねの先におもりをつけて往復させる「減衰振動」といった内容が、この単元にかかわり深い内容です。

 

 まずはシンプルな用語の確認から。運動の様子が、きれいなサインカーブ(正弦曲線)を描いていますので、物理基礎や中1の音の単元で学習した波の知識の復習をするくらいで大丈夫です。

 

 振動の中心から上端、もしくは下端までの長さのことを振幅\(A[m]\)と言います。また、\(1\)往復にかかる時間を周期\(T[s]\)、\(1s\)間に振動する回数を振動数\(f[Hz]\)と言います。

 

 周期と振動数は、その定義から、

 

  \(1\)往復:\(T[s]\) = \(f\)往復:\(1s\)

 

 と書けますので、

 

  \(fT=1\)

 

という関係があります。これは物理基礎の波動と同じく、公式というほどのものではありませんが、よく使うので公式化して暗記しておくと便利です。

 

 

▼用語確認

 振幅\(A[m]\)  振動中心から振動端部までの長さ

 周期\(T[s]\)  \(1\)往復に要する時間

 振動数\(f[Hz]\) \(1s\)間の往復回数

 

 

▼周期と振動数の関係

 \(fT=1\)  \(f=\displaystyle\frac{1}{T}\)  \(T=\displaystyle\frac{1}{f}\)

 

 

角振動数

 単振動の運動の様子を表すとき、円運動を持ち出すと、考え方がシンプルになります。

 

 円運動をしている物体の横から光を当てて、その影を追いかけたとき、影の運動がちょうど単振動の運動の様子となります。

 

 つまり、わざわざ単振動のための公式を新たに作らなくても、円運動と重複させられるところは重複させてしまった方が、結果的には覚えることも少なくて済むわけです。

 

 円運動と考え方をかぶせるために、新しい概念を一つ設定しておきます。円運動では、\(1s\)間に何度(何ラジアン)回転するか、という量として、角速度\(\omega\)を導入しました。しかし単振動では、運動の様子が似ているとは言え、さすがに円軌道上を運動しているわけではありませんので、用語だけ変えて「角振動数」ということにします。

 

 少し専門的な話になりますが、「等速」円運動の影をうつして考える単振動では、慣例で「角振動数」という用語を使いますが、「非等速」円運動の影をうつして考える振動現象を考えるときは、そのまま「角速度」を使うこともあります。

 このあたりの話は高校では扱いませんので、特に気にしなくてもいいです。

 

▼角振動数と角度の関係

 \(\omega=\displaystyle\frac{\theta}{t}\)

 \(\theta=\omega t\)

 

\(1s\)間に何度回転しているかを表す量が\(\omega\)でしたから、\(t[s]\)間での回転角を\(\theta\)と置くことで関係を表しています。

 

 

単振動の位置

位置については、きれいなサインカーブを描いていますので、振動中心を原点\(x=0\)として、振幅を\(A\)とすれば、

 

 \(x=Asin\omega t\)

 

と書けます。ただ、必ずしも物体は原点を中心に振動しているとは限りませんので、振動中心が、より一般的な\(x=x_0\)という位置にあるのであれば、\(\omega t=0\)のときに\(x=x_0\)であればいいので、少し式を変形して、

 

 \(x=x_0+Asin\omega t\)

 

となります。さらに、振動は必ずしも振動中心から始まるとも限りませんので、角度\(\omega t\)も最初に\(0\)とは限らず、少しずれているかもしれません。角度のズレを\(\phi\)(ファイ)として、それも考慮して式変形すると、

 

 \(x=x_0+Asin(\omega t + \phi)\)

 

となります。このとき、\((\omega t + \phi)\)が、ひっくるめて角度に相当する部分であって、位置の相(状態)を表すことから「位相」と呼びます。

 

 この先、理解を助けるために、一般的なものから考えるのではなく、一番単純なものを学んでいこうと思いますので、特殊な条件ですが、振動は振動中心から始まり、振動中心は原点と一致していることとして、最初に示した式を使って説明を進めます。

 

両方の表記をしますが、学習はじめは特殊条件の方の公式だけ覚えていけば十分です。

 

 

▼単振動の位置公式(特殊)

 \(x=Asin\omega t\)

 

▼単振動の位置公式(一般)

 \(x=x_0+Asin(\omega t + \phi)\)

 

単振動の速度

速度も、円運動の影から考えます。円運動上を速さ\(V\)で物体が動いているとき、その縦軸成分は、位相\(\omega t\)を用いて、

 

 \(v=Vcos\omega t\)

 

と書けます。位相という言葉に不慣れな人は、とりあえず「角度」と同じものだと思っておきましょう。単振動する物体の軌道に角度なんか現れませんから、言葉が違うだけなんだ、というくらいの認識で十分です。正確な知識は、必要になったときにおさえることにします。

 

ところで、円運動の速さの公式は\(V=r\omega\)でしたので、円軌道の半径を振幅\(A\)で表すのであれば、

 

 \(V=A\omega\)

 

です。よって、これを代入して、単振動の速度の公式は

 

 \(v=A\omega cos \omega t\)

 

となります。この式は、振動中心が原点だろうと、ある位置\(x_0\)だろうと同じ形になりますので、一般的な形で表すのであれば、位相の部分だけ修正して

 

 \(v=A\omega cos(\omega t +\phi)\)

 

となります。

 

 

▼単振動の速度公式(特殊)

 \(v=A\omega cos \omega t\)

 

▼単振動の速度公式(一般)

 \(v=A\omega cos(\omega t +\phi)\)

 

単振動の加速度

加速度も同じく円運動の影を追っていきます。円運動の加速度は、正式には向心加速度といい、中心の方を向いています。円運動の加速度の大きさを\(\alpha\)、単振動の加速度の大きさを\(a\)として、文字を変えておきます。

 

この向心加速度の縦軸成分は、

 

 \(a=-\alpha sin\omega t\)

 

です。また、円運動の加速度の大きさは\(\alpha=r\omega^2\)でしたので、半径を振幅と読み替えて、上式に代入すると、

 

 \(a=-A\omega^2 sin\omega t\)

 

これも速度と同じく、振動中心の位置によらず決まる量なので、一般の位相であれば

 

 \(a=-A\omega^2 sin(\omega t+\phi)\)

 

となります。この式の後ろの部分に注目すると、変位が、

 

 [特殊] \(x=Asin\omega t\)

 [一般] \(x=x_0+Asin(\omega t + \phi)\)

 

と書けましたので、\(x\)を使って

 

 [特殊] \(a=-\omega^2 x\)

 [一般] \(a=-\omega^2 (x-x_0)\)

 

と書くこともできます。

 

 

▼単振動の加速度公式(特殊)

 \(a=-A\omega^2 sin\omega t\)

 \(a=-\omega^2 x\)

 

▼単振動の加速度公式(一般)

 \(a=-A\omega^2 sin(\omega t+\phi)\)

 \(a=-\omega^2 (x-x_0)\)

 

くり返しになりますが、入試直前までは、特殊条件(原点スタート、振動中心スタート)の方の公式だけで十分ですので、背伸びして一般条件の公式を使わなくても大丈夫です。