重力
重力と万有引力とをつなぐ関係式を考えてみましょう。
「重力」とは、地球の質量が地球の中心1点に集中しているとみなしたとき、ちょうど地球から物体までの距離が、地球の半径\(R\)だけ離れた点で受ける万有引力に等しくなります。
少し難しく言いましたが、要は、地表付近であれば、重力と万有引力は同じ値になるはずだということです。
そのためには、一つ、目をつぶらないといけないことがあります。それは遠心力です。実際は、地球は自転していますので、緯度に応じていくらかの遠心力がかかるはずですが、このときの大きさは重力や地表付近の万有引力と比べるとはるかに小さいですから、そもそも存在しないものとします。
すると、重力≒万有引力とすることができて、
\(mg=G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
\(g=\displaystyle\frac{GM}{R^2}\)
とすることができます。これが、今まで重力加速度とまとめていた\(g\)の、真の姿です。
問題を解くときには、分数表記を避けて、\(gR^2=GM\) と書き、これを公式のように使うことがよくあります。
このように式変形して求めてやったあとは、もはや数値の換算にすぎない式となっています。左辺の\(g\)はおよそ\(9.8m/s^2\)と知られています。また地球の半径\(R\)も決まっています。
一方の右辺の\(G\)は定数ですし、地球の質量\(M\)も定数です。
結局、この関係式は、数値として\(GM\)と\(gR^2\)が同じ数値になりますよ、ということを示していますので、導出こそ地表付近で考えましたが、あとは人工衛星の高さであろうが何だろうが、地表から遠く離れたところでも\(GM=gR^2\)は成立します。
使い分けとしては、問題文で\(G\)を問われているのか、\(g\)を問われているのか、という違いで判断して、\(gR^2=GM\)を使って、随時、自分に都合のいい方の文字に切り替えてやるといいですね。
▼万有引力定数を用いた重力加速度
\(g=\displaystyle\frac{GM}{R^2}\)
\(gR^2=GM\)
[発展] 遠心力も考慮した重力
では、遠心力もきちんと考慮して、重力≒万有引力とすると、どのように式を追いかけることができて、重力加速度は緯度によってどのくらい\(9.8m/s^2\)からずれるのか、検討してみましょう。
この項目は、高校範囲でも理解はできますが、大学初年度級の話題になりますので、読み飛ばしてかまいません。
質量\(m\)の物体を北緯\(\theta\)に置いたとき、物体から回転軸までの距離を\(r\)、地球の半径を\(R\)、質量を\(M\)、自転の角速度を\(\omega\)とすると、
回転半径は
\(r=Rcos\theta\)
遠心力は
\(f=mr\omega^2\)
\(=mR\omega^2cos\theta\)
万有引力は
\(F=G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
\(x\)軸と\(y\)軸を図のように設定しておくと、
重力の\(x\)成分は
[x成分]\(=F_x-f\)
\(=Fcos\theta-mR\omega^2cos\theta\)
\( \left( G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}-mR\omega^2 \right) cos\theta\)
重力の\(y\)成分は
[y成分]\(=F_y\)
\(=Fsin\theta\)
\(=G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}sin\theta\)
よって、重力の大きさは、
\((mg)^2=\) [x成分]\(^2\) \(+\) [y成分]\(^2\)
\(=\) \( \left( G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}-mR\omega^2 \right)^2 cos^2\theta\) \(+\) \( \left(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \right)^2sin^2\theta\)
\(=\) \( \left( G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \right)^2 cos^2\theta -2G\displaystyle\frac{Mm^2\omega^2}{R}cos^2\theta +m^2R^2\omega^4 cos^2\theta\) \(+\) \( \left(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \right)^2sin^2\theta\)
\(= \left( G\displaystyle\frac{Mm}{R^2} \right)^2 + \left(m^2R^2\omega^4 -2Gm^2\displaystyle\frac{M\omega^2}{R} \right) cos^2\theta\)
\(g^2=\left( G\displaystyle\frac{M}{R^2} \right)^2 + \left(R^2\omega^4 -2G\displaystyle\frac{M\omega^2}{R} \right) cos^2\theta\)
\(g=\displaystyle\sqrt{\left( G\displaystyle\frac{M}{R^2} \right)^2 + \left(R^2\omega^4 -2G\frac{M\omega^2}{R} \right) cos^2\theta}\)
となります。
\(R≒6.37×10^6m\)、\(M≒5.97×10^{24}kg\)、\(\omega≒7.27×10^{-5}rad/s\)、\(G≒6.67×10^{-11}N・m/kg^2\)
であるから、それぞれ代入すると、
\(R^2\omega^4~10^{-3}\)に対して、\(2G\displaystyle\frac{M\omega^2}{R}~10^0\)なので、 (※「~」はこのくらいの桁数という意味。「約」という意味に近い)
\(g≒\displaystyle\sqrt{ \left( G\displaystyle\frac{M}{R^2} \right)^2 \left(1-\displaystyle\frac{2GM\omega^2 cos^2\theta}{(G\cfrac{M}{R^2})^2R} \right)}\)
\(=G\displaystyle\frac{M}{R^2}\sqrt{1-\frac{2R^3\omega^2cos^2\theta}{GM}}\)
ここで、\(\sqrt{1+x}≒1+\frac{1}{2}x\)というニュートン近似を用いると、
\(g≒G\displaystyle\frac{M}{R^2} \left( 1-\frac{1}{2}・\frac{2R^3\omega^2cos^2\theta}{GM}\right)\)
\(=G\displaystyle\frac{M}{R^2} \left( 1-\frac{R^3\omega^2cos^2\theta}{GM}\right)\)
\(≒9.81(1\)\(-0.34×10^{-2}cos^2\theta\)\()[m/s^2]\)
となりました。青字の部分が遠心力の効果によるもので、確かに初めから\(0\)と近似しておいても、数値的にはあまり大きな影響はなさそうです。