2物体の重心の公式は、
\(x_G=\displaystyle\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}\)
で与えられます。この重心が少しの時間\(\Delta t\)の間に、少しだけ動いたとしましょう。すると、変化するのは位置だけですので、重心の位置は、
\(\Delta x_G=\displaystyle\frac{m_1 \Delta x_1 + m_2 \Delta x_2}{m_1+m_2}\)
と書くことが出来ます。なので、両辺を\(\Delta t\)で割ってやると、
\(\displaystyle\frac{\Delta x_G}{\Delta t}=\frac{m_1 \frac{\Delta x_1}{\Delta t}+m_2\frac{\Delta x_2}{\Delta t}}{m_1+m_2}\)
となるので、
\(v_G=\displaystyle\frac{m_1 v_1+m_2 v_2}{m_1+m_2}\)
となり、これで重心速度の公式を作ることが出来ます。
この問題では、板と人以外に物体はなく、この2つの物体を一つと考えた(以下「系」と呼ぶ)とすると、系に外力が加わっていないので、重心速度は\(0\)になります。
すると、公式は
\(0=m_1v_1+m_2v_2\)
ということになり、運動量保存則と同じになります。
「系に外力が加わらないとき、運動量は保存する」というルールは大切ですが、導出すると、上のように重心からの考えから導くことができます。
この問題では、系に外力が加わらず、運動量が保存できる設定だということを前提に解き進めます。
この問題を解く上では大きく重要となる話ではないですが、この問題を解くついでに知っておきましょう。
(1)
ここから本題。人が板上を速度\(v\)で右向きに歩くと、床に摩擦がないので、おそらく板は左向きに抜けていくだろうという想定ができます。ですが、いちいち人は右を正、板は左を正、と設定していると邪魔くさいので、全部まとめて右に動いてしまうことにしてしまいます。実際どうなるかは計算してマイナスが出たときに、あ、置いた向きと逆だったんだ、で良いと思います。
床から見て、人が右向きに速さ\(v\)、板も右向きに速さ\(V\)で動くとして、運動量保存則から、
\(0=2mv+mV\)
よって
\(V=-2v\)
(2)
はじめ、質量\(2m\)の人は原点にいます。板の重心は板のちょうど真ん中にありますので、質量\(m\)の板は座標\(\displaystyle\frac{l}{2}\)にあるとします。
これらの重心位置は、重心公式
\(x_G=\displaystyle\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}\)
より
\(x_G=\displaystyle\frac{2m×0+m×\frac{l}{2}}{2m+m}\)
\(x_G=\displaystyle\frac{m\frac{l}{2}}{3m}\)
分子分母\(2\)倍して、\(m\)も約分すると、
\(x_G=\displaystyle\frac{l}{6}\)
(4)
(3)より先に(4)を出してしまいますね。
(2)で、左端から重心までの距離が\(\displaystyle\frac{l}{6}\)と求まりました。
ということは、最終的に人間が右端に到達したときも、右端から重心までの距離は同じく\(\displaystyle\frac{l}{6}\)になるはずです。
系に外力が加わらず、重心の位置は変化しませんので、(2)で原点から重心までの距離が\(\displaystyle\frac{l}{6}\)、その点をそのままに、(4)ではさらに同じ\(\displaystyle\frac{l}{6}\)だけ進めると、それが右端にいる人までの距離となります。
よって、その位置\(x_1\)は、
\(x_1=\displaystyle\frac{l}{6}+\frac{l}{6}\)
\(x_1=\displaystyle\frac{l}{3}\)
となり、それは同時に板の右端ですので、板の長さ分だけ左にたどってやると板の左端の位置も求まります。
\(x_2=x_1-l\)
\(x_2=\displaystyle\frac{l}{3}-l\)
\(x_2=-\displaystyle\frac{2l}{3}\)
となりました。
(3)
戻って(3)を解きます。
はじめ、板が図のように置かれているときは、板の両端の座標が
\(x_左=0\)
\(x_右=l\)
と分かっていたので、その中点\(\displaystyle\frac{l}{2}\)に重心があると、すぐに求めることができました。
ところが、人が歩いて行ったために板が動いてしまうと、板がどのくらい動くか分からない以上、重心の座標は求めることができなくなってしまいます。そこで、板が動いたあとの板の両端の座標をそれぞれ、
\(x_左=x_2\)
\(x_右=x_1\)
と置く、と設定することにしたそうです。それぞれの具体的な座標値は不明なままですが、これらの中点に重心があることは分かりますので、板のみの重心位置を出すと、
\(x’_G=\displaystyle\frac{x_1+x_2}{2}\)
とすることができます。そうなると、問題は急に(2)のレベルまで落とすことができます。
(2)と同様に求めてみましょう。
質量\(2m\)の人は右端\(x_1\)にいます。質量\(m\)の板は\(\displaystyle\frac{x_1+x_2}{2}\)にあります。
これらの重心位置は、重心公式
\(x_G=\displaystyle\frac{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}\)
より
\(x_G=\displaystyle\frac{2mx_1+m\frac{x_1+x_2}{2}}{2m+m}\)
分子分母\(2\)倍して、
\(x_G=\displaystyle\frac{4mx_1+m(x_1+x_2)}{6m}\)
\(x_G=\displaystyle\frac{4mx_1+mx_1+mx_2}{6m}\)
\(x_G=\displaystyle\frac{5mx_1+mx_2}{6m}\)
\(x_G=\displaystyle\frac{5x_1+x_2}{6}\)
となりました。