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2018京工繊Ⅰ

図はタップすると拡大できます。

 

(1)

慣性力は静止している人から見たときの加速度の向きと逆向きに働きます。

よって、左向きに大きさ\(ma\)

 

 

(2)

台車の上にいる観測者から見たとき、物体にはたらいている力がどうなっているかを全て書き出してみると図の状態になります。

 

この図において、斜面に垂直な方向の軸をとってやって、つり合いの式を立てると、

 

 \(N\)\(+\)\(ma\sin\theta\)\(=\)\(mg\cos\theta\)

 

となりますので、移項して

 

 \(N\)\(=\)\(mg\cos\theta\)\(-\)\(ma\sin\theta\)

  \(=\)\(m(g\cos\theta-a\sin\theta)\)

 

 

(3)

摩擦がないとすると、斜面から落ちようとする力の合力は

 \(F=\)\(ma\cos\theta\)\(+\)\(mg\sin\theta\)

となります。

 

一方で、物体が摩擦力を受けて斜面上で静止しているためには、今加えている力\(F\)と、物体の最大静止摩擦力\(f_0\)を比較したときに、

 \(F≦f_0\)

という関係が成立していなければなりません。

 

ここで\(F\)は先に求めた、斜面下向きへの合力です。そして、最大静止摩擦力\(f_0\)は、

 

 \(f_0=\)\(\mu N\)

  \(=\)\(\mu(\)\(mg\cos\theta\)\(-\)\(ma\sin\theta\)\()\)

 

ですので、物体の静止条件は

 

 \(ma\cos\theta\)\(+\)\(mg\sin\theta\) \(≦\) \(\mu(\)\(mg\cos\theta\)\(-\)\(ma\sin\theta\)\()\)

 

となります。両辺\(m\)で割って

 

 \(a\cos\theta\)\(+\)\(g\sin\theta\) \(≦\) \(\mu(\)\(g\cos\theta\)\(-\)\(a\sin\theta\)\()\) 

 

移項して

 

 \(a\cos\theta+\mu a\sin\theta\) \(≦\) \(\mu g\cos\theta-g\sin\theta\) 

 

 \(a(\cos\theta+\mu \sin\theta)\) \(≦\) \(g(\mu\cos\theta-\sin\theta)\)

 

よって

 

 \(a≦\displaystyle\frac{\mu\cos\theta-\sin\theta}{\cos\theta+\mu \sin\theta}g\)

 

となります。最後の\(g\)を忘れず。

 

 

(4)

斜面から離れるためには、斜面に垂直な軸での力関係を見たときに、斜面垂直に上向きの合力の方が、斜面垂直に下向きの力より大きければいいということになります。

 

文章だと分かりにくいですので、(2)の式を参考にしながら力関係を式で表すと、

 

 \(N\)\(+\)\(ma\sin\theta\)\(>\)\(mg\cos\theta\)

 

となります。

さらに、物体が斜面から離れると、当然ながら\(N=0\)になりますので、

 

 \(ma\sin\theta\)\(>\)\(mg\cos\theta\)

 

となるような強い慣性力が働いていれば、物体が置いてけぼりにされて、斜面だけがダルマ落としのように、右向きにスポンと抜けていってしまいます。

 

この式を解いてみましょう。まずは両辺を\(m\)で割って、

 

 \(a\sin\theta\)\(>\)\(g\cos\theta\)

 

あとは移項して、

 

 \(a>\displaystyle\frac{g}{\tan\theta}\)

 

となりました。

 

 

(5)

今度は斜面を左向きに動かすことにしました。斜面の摩擦具合と、動かす速さによって、物体は斜面の上に行く可能性も、下に行く可能性もあります。

 

なので、現時点では摩擦力がどちら向きに働くのかが断定できませんので、作図中には書かないでおきます。

 

ただし、それでも最大静止摩擦力は求めることができます。

斜面垂直な軸での力のつり合いの関係から、

 

 \(N\)\(=\)\(mg\cos\theta\)\(+\)\(mb\sin\theta\)

 

ですので、

 

 \(f_0=\)\(\mu N\)

  \(=\mu m(\)\(g\cos\theta\)\(+\)\(b\sin\theta\)\()\)

 

となります。

 

 

 

(6)

ここでようやく、物体が動く向きが公表されました。

物体は斜面上を滑りあがるそうですので、摩擦はその運動方向と逆向きに、斜面下向きに作図してやるといいですね。

 

最大静止摩擦力の大きさは(5)で求めたように、

 

 \(f_0=\mu m(\)\(g\cos\theta\)\(+\)\(b\sin\theta\)\()\)

 

です。

 

物体がすべり出すためには、この力より大きな力を加えればいいので、斜面方向で力関係を調べたときに、

 

 \(mb\cos\theta\)\(>\)\(mg\sin\theta\)\(+\)\(f_0\)

 

となるくらいに大きな慣性力が加わっていれば、物体が斜面上向きに滑りあがる、ということです。

よって、

 

 \(mb\cos\theta\)\(>\)\(mg\sin\theta\)\(+\mu m(\)\(g\cos\theta\)\(+\)\(b\sin\theta\)\()\)

 

両辺\(m\)で割って、

 

 \(b\cos\theta\)\(>\)\(g\sin\theta\)\(+\mu (\)\(g\cos\theta\)\(+\)\(b\sin\theta\)\()\)

 

移項して

 

 \(b\cos\theta-\mu b\sin\theta\)\(>\)\(g\sin\theta+\mu g\cos\theta\)

 

 \(b(\cos\theta-\mu \sin\theta)\)\(>\)\(g(\sin\theta+\mu \cos\theta)\)

 

よって、

 

 \(b>\displaystyle\frac{\sin\theta+\mu \cos\theta}{\cos\theta -\mu \sin\theta}g\) 

 

となります。こちらも\(g\)を忘れず。

 

 

(7)

さて、(6)で見たとおり、物体は斜面上向きに滑り上がります。

このときの加速度の大きさを\(\alpha\)としておきます。

 

ちなみに向きは斜面上向きですよ。

 

物体がこの加速度で斜面を上がっていき、時間\(T\)だけ経過したときにどのくらい進みましたか、ということが問われています。

これはシンプルな話で、初速度ゼロですから、進んだ距離を\(L\)とすると、

 

 \(L=\displaystyle\frac{1}{2}\alpha T^2\)

 

で表すことができます。

 

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補足ですが、時間\(T\)だけ経過する途中で物体が止まってしまえば、当然、式は不成立になってしまいますし、斜面の上端まで滑りきってしまって、斜面から発射されてしまっても問題は不成立になってしまいますので、今回の問題設定ではきちんと問題文に

 

「ただし、時刻\(t=T\)まで台車は減速しつづけており、小物体は斜面上にある」

 

と条件を与えています。この一文がないと問題は条件的に解けなくなります。

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さて、\(\alpha\)を求めるために、運動方程式を解くことにします。

斜面上向きを正として、運動方程式を立てると、

 

 \(m\alpha=\)\(mb\cos\theta\)\(-mg\sin\theta\)\(-\mu' m(g\cos\theta +b\sin\theta)\)

 

両辺\(m\)で割ると、

 

 \(\alpha=\)\(b\cos\theta\)\(-g\sin\theta\)\(-\mu' (g\cos\theta +b\sin\theta)\)

  \(=b(\cos\theta-\mu' \sin\theta) -g(\sin\theta+\mu' \cos\theta)\)

 

と、比較的簡単な計算で加速度を求めることができますので、これを最初の距離の式に代入して、

 

 \(L=\displaystyle\frac{1}{2}\alpha T^2\)

 

  \(=\displaystyle\frac{1}{2}\left[ b(\cos\theta-\mu' \sin\theta) -g(\sin\theta+\mu' \cos\theta) \right] T^2\)

 

として終了です。