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リ物 基119

(ア)[分子の運動量変化]

 質量\(m\)の分子が\(x\)軸正の方に速度成分\(v_x\)で運動しているとき、\(x\)軸方向への運動量は\(mv_x\)です。

これが壁面\(A\)で弾性衝突して、はね返ると、速度成分は\(-v_x\)になりますので、\(x\)軸方向への運動量は\(-mv_x\)です。

 

このとき、運動量の変化は「あと-まえ」から、\(-mv_x-mv_x=-2mv_x\)となります。

 

 

(イ)[壁面に与える力積]

 (ア)で求めたものは、「分子の運動量の変化」です。

運動量の変化と力積は同じものですので、言い換えると「分子が壁面から受けた力積」です。

分子が壁面に衝突するとき、作用反作用が成立しますので、「壁面が分子から受けた力積」は、(ア)と逆符号になります。

よって、\(2mv_x\)となります。

 

 

(ウ)[衝突回数]

 分子は壁面とぶつかりながら何回も往復します。\(x\)軸方向だけ考えたとき、分子のスタートとゴールをどう考えても、1往復する間に壁面\(A\)に衝突できるのは1回だけです。 

 

1往復する時間を求めると、往復\(2L\)の道のりを速さ\(v_x\)で進むことになりますので、「距離÷速さ」から\(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\)ですね。

 

この時間に1回だけ衝突しますが、そうすると、1秒あたりには何回衝突していることになるでしょうか。この計算は比を使うと分かりやすいと思います。1回衝突するのに\(\displaystyle\frac{2L}{v_x}[s]\)かかるので、1秒での衝突回数を\(n\)と置くと、

 

 \(1[回]\) : \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) = \(n[回]\) : \(1[s]\)

 

となりますので、内項と外項の積が等しくなることから、

 

 \(n\displaystyle\frac{2L}{v_x}=1\)

 

 \(n=\displaystyle\frac{v_x}{2L}[回]\)

 

ところがいま、1秒間の衝突回数を問われているわけではなく、\(t[s]\)間での衝突回数を問われているので、これを\(t\)倍して、

 

 \(\displaystyle\frac{v_xt}{2L}[回]\)

 

これが解答です。

 

 

(エ)[1分子が壁面に及ぼす平均の力]

 以上の話をまとめると、分子一つが壁面に1回衝突するごとに\(2mv_x\)の力積を与え、\(t[s]\)間にその衝突回数が\(\displaystyle\frac{v_xt}{2L}[回]\)だということです。

なので、これらの積をとると、分子が壁面に与えた力積の総和になります。力積は\(I=ft\)で書けますので、

 

 \(ft=2mv_x×\displaystyle\frac{v_xt}{2L}\)

 

 \(f=\displaystyle\frac{mv^2_x}{L}\)

 

となりますね。

 

 

(オ)[気体分子の等方性]

 ここまで、分子の速度を\(x\)成分に限って議論してきました。ですが一般的には、分子の運動は\(x\)軸方向にも\(y\)軸、\(z\)軸方向にも成分を持つはずです。

 

ある方向に速度\(v\)で飛んでいる分子を軸成分に分解するとき、三平方の定理から、

 

 \(v^2=v_x^2+v_y^2+v_z^2\)

 

となります。これは平均値で考えても成立する話ですので、

 

 \(\overline{v^2}=\overline{v_x^2}+\overline{v_y^2}+\overline{v_z^2}\)

 

と書いてもいいことになります。もっと言うと、分子の動きは完全にランダムですので、平均にしてしまえば、どちらかの軸の成分が大きくなるとか小さくなるとか、そういうことは起こらないはずですので、それぞれの速度成分の値は平均的に同じで、

 

 \(\overline{v_x^2}=\overline{v_y^2}=\overline{v_z^2}\)

 

とできます。

すると、一つ前の式は

 

 \(\overline{v^2}=\overline{v_x^2}+\overline{v_x^2}+\overline{v_x^2}\)

 

 \(\overline{v^2}=3\overline{v_x^2}\)

 

 \(\overline{v_x^2}=\displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\)

 

と書き換えることができ、\(x\)成分に限って議論しなくても、値の大きさだけなら式変形が可能だということがわかります。

このときの考え方を「気体分子の等方性」といいます。

 

さて、これも使いながら(オ)の問題を解きます。

分子一つあたりが壁面に及ぼす力は(エ)より

 

 \(f=\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\)

 

でしたので、分子が\(N\)個あれば、

 

 \(F=N\displaystyle\frac{m\overline{v_x^2}}{L}\)

 

となります。ここに「分子の等方性」から、\(\overline{v_x^2}=\displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\)を適用すると、

 

 \(F=N\displaystyle\frac{m\overline{v^2}}{3L}\)

 

となり、一般的な\(N\)個の分子から受ける力を、一般的な\(v\)の速度で示すことができました。

 

 

(カ)[気体の圧力]

 圧力は「力÷面積」で表されますので、

 

 \(p=\displaystyle\frac{F}{S}\)

 

ですが、今、壁面の面積は一辺\(L\)の正方形ですので\(S=L^2\)です。よって

 

 \(p=\displaystyle\frac{F}{L^2}\)

 

となります。ここに(オ)の式を代入すると、

 

 \(p=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3L^3}\)

 

となりました。

 

 

(キ)[分子1個のエネルギー]

 (カ)の式の分母は、体積\(V\)に書き換えられるので、

 

 \(p=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\)

 

移項して、

 

 \(pV=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3}\)

 

状態方程式から、

 

 \(nRT=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3}\)

 

分子の総数は、モル数\(n[mol]\)とアボガドロ数\(N_A(=6×10^{23}個)\)から\(N=nN_A\)とできるので、

 

 \(nRT=\displaystyle\frac{nN_Am\overline{v^2}}{3}\)

 

右辺からむりやり運動エネルギーの形を作ってやると、

 

 \(RT=\displaystyle\frac{2N_A}{3}・\frac{1}{2}m\overline{v^2}\)

 

移項して、

 

 \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2}=\frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T\)

 

この右辺が(キ)の解答です。

 

 

(ク)[二乗平均速度]

 (キ)の式を変形して、

 

 \(\overline{v^2}=\displaystyle\frac{3R}{mN_A}T\)

 

ここで、分子一つの質量\(m\)をアボガドロ数(\(N_A\))倍すると、ちょうどモル質量\(M(=mN_A)\)になりますので、

 

 \(\overline{v^2}=\displaystyle\frac{3R}{M}T\)

 

ただし、モル質量\(M\)は\([kg]\)単位を想定していますので、\([g]\)単位で表す分子量\(M_0\)を使うと、

 

 \(M=M_0×10^{-3}\)

 

と変換できます。

 

換算するときの指数に注意してください。例えば分子量\(12\)の炭素を\(1mol\)あつめると\(12g\)になりますが、これを\([kg]\)に換算すると\(0.012kg\)ですね。\(0.012=12×10^{-3}\)という関係になりますので、こういった具体的な数値で考えるといいと思います。

 

よって、

 

 \(\overline{v^2}=\displaystyle\frac{3R}{M_0×10^{-3}}T\)

 

 \(\sqrt{\overline{v^2}}=\sqrt{\displaystyle\frac{3R}{M_0×10^{-3}}T}\)

 

となり、これでようやく終わりです。