気体分子運動論は、3年間の高校物理の中でも有数の計算が重たい分野です。
この分野と、あとは教科書の最後の方にあるボーアモデルという計算は非常に重たくて、なかなか最初からいきなり理解することは難しいところです。
ただうれしいことに、ずば抜けて難しいおかげで、これ以上加工して出題することがなく、ここで見ていく計算式を追いかけていって、よくわからんけどこうすればいいんやな、と丸々覚えてしまっても、入試でも模試でも十分通用するレベルまで行けてしまう、という分野でもあるんです。
一部の難関大の入試を除いて、丸々暗記で受験対策まで網羅できる、しかもライバルは点数が取れない、というチャンス分野ですので、何回か手を動かして制覇してしまいましょう!
気体分子運動論の最終ゴールは、圧力を出すことです。圧力を求めるまでの道筋を示しておきますので、確認しましょう。
▼気体分子運動論の解法指針
Step1:気体分子が1回衝突するときの力積を求める。
Step2:\(t[s]\)間の衝突回数を求める。
Step3:1分子が壁面に与える平均の力を計算する。
Step4:気体分子の等方性を利用して気体分子が壁面に与える圧力を求める。
の4ステップです。
そして、追加で問われれば、ここから少し式変形をして、
Step5:気体分子1つ分の運動エネルギーを求める。
Step6:気体分子の二乗平均速度を求める。
がついてくることもありますが、これは分野が別のところ、と切り離して考えてしまえば、気体分子運動論の何が難しくて何ができないところなのかが明確になると思います。
Step1 気体分子が1回衝突するときの力積
質量\(m\)の分子が\(x\)軸正の方に速度成分\(v_x\)で運動しているとき、\(x\)軸方向への運動量は\(mv_x\)です。
これが壁面\(A\)で弾性衝突して、はね返ると、速度成分は\(-v_x\)になりますので、\(x\)軸方向への運動量は\(-mv_x\)です。
このとき、運動量の変化は「あと-まえ」から、\(-mv_x-mv_x=-2mv_x\)となります。
今求めたものは、「分子の運動量の変化」です。
運動量の変化と力積は同じものですので、言い換えると「分子が壁面から受けた力積」です。
分子が壁面に衝突するとき、作用反作用が成立しますので、「壁面が分子から受けた力積」は逆符号になります。
よって、\(2mv_x\)となります。
Step2 \(t[s]\)間の衝突回数
分子は壁面とぶつかりながら何回も往復します。\(x\)軸方向だけ考えたとき、1往復する間に壁面\(A\)に衝突できるのは1回だけです。
1往復する時間を求めると、往復\(2L\)の道のりを速さ\(v_x\)で進むことになりますので、「距離÷速さ」から\(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\)ですね。
この時間に1回だけ衝突しますが、そうすると、1秒あたりには何回衝突していることになるでしょうか。この計算は比を使うと分かりやすいと思います。1回衝突するのに\(\displaystyle\frac{2L}{v_x}[s]\)かかるので、1秒での衝突回数を\(n\)と置くと、
\(1[回]\) : \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) = \(n[回]\) : \(1[s]\)
となりますので、内項と外項の積が等しくなることから、
\(n\displaystyle\frac{2L}{v_x}=1\)
\(n=\displaystyle\frac{v_x}{2L}[回]\)
となります。
これは、1秒間の衝突回数ですので、\(t[s]\)間での衝突回数を考えようと思ったら、これを\(t\)倍して、
\(\displaystyle\frac{v_xt}{2L}[回]\)
となります。
Step3 1分子が壁面に及ぼす平均の力
以上の話をまとめると、分子一つが壁面に1回衝突するごとに\(2mv_x\)の力積を与え、\(t[s]\)間にその衝突回数が\(\displaystyle\frac{v_xt}{2L}[回]\)だということです。
なので、これらの積をとると、分子が壁面に与えた力積の総和になります。
力積は\(I=ft\)で書けますので、
\(ft=2mv_x×\displaystyle\frac{v_xt}{2L}\)
\(f=\displaystyle\frac{mv^2_x}{L}\)
となりますね。
Step4 圧力の計算
ここまで、分子の速度を\(x\)成分に限って議論してきました。ですが一般的には、分子の運動は\(x\)軸方向にも\(y\)軸、\(z\)軸方向にも成分を持つはずです。
ある方向に速度\(v\)で飛んでいる分子を軸成分に分解するとき、三平方の定理から、
\(v^2=v_x^2+v_y^2+v_z^2\)
となります。これは各成分の平均値について考えても成立しますので、
\(\overline{v^2}=\overline{v_x^2}+\overline{v_y^2}+\overline{v_z^2}\)
と書いてもいいことになります。
もっと言うと、分子の動きは完全にランダムですので、平均値にしてしまえば、どちらかの軸の成分が大きくなるとか小さくなるとか、そういうことは起こらず、それぞれの速度成分の値は平均的に同じ値となるはずです。
いま、\(x\)、\(y\)、\(z\)軸をどちらかの向きに設定して話を進めていますが、どの向きに軸をおいても値は同じになるはずです。なので平均値は軸によらず同等ということで、
\(\overline{v_x^2}=\overline{v_y^2}=\overline{v_z^2}\)
とできます。
すると、一つ前の式は
\(\overline{v^2}=\overline{v_x^2}+\overline{v_x^2}+\overline{v_x^2}\)
\(\overline{v^2}=3\overline{v_x^2}\)
\(\overline{v_x^2}=\displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\)
と書き換えることができ、\(x\)成分に限って議論しなくても、値の大きさだけなら式変形が可能だということがわかります。
このときの考え方を「気体分子の等方性」といいます。
さて、これも使いながら話を進めていきましょう。
分子一つあたりが壁面に及ぼす力は
\(f=\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\)
でしたので、分子が\(N\)個あれば、
\(F=N\displaystyle\frac{m\overline{v_x^2}}{L}\)
となります。ここに「分子の等方性」から、\(\overline{v_x^2}=\displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\)を適用すると、
\(F=N\displaystyle\frac{m\overline{v^2}}{3L}\)
となり、一般的な\(N\)個の分子から受ける力を、一般的な\(v\)の速度で示すことができました。
圧力は「力÷面積」で表されますので、
\(p=\displaystyle\frac{F}{S}\)
ですが、今、壁面の面積は一辺\(L\)の正方形ですので\(S=L^2\)です。よって
\(p=\displaystyle\frac{F}{L^2}\)
となります。ここに先ほどの式を代入すると、
\(p=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3L^3}\)
となりました。
長い計算を追いかけましたが、結局やっていることは、分子1粒が1回衝突するときの力積を出して、衝突回数分だけ掛け算するだけ、という構成になっています。
それが1粒のことを考える問題もありますし、一般的に\(N\)粒の気体粒子だったらどうなるか、と\(N\)倍させて扱う問題もありますし、それは問題文に応じて書き換えてやればいいんですが、論理展開の骨組みの部分はきちんと理解しておきたいですね。
Step5とStep6は、また後日やる気が舞い降りてきたときに、まとめようかと思います。