電子の運動エネルギー
初速度ゼロの電子1つが、電位差\(V\)の場で加速されて運動エネルギーを得るとき、その大きさは仕事の式\(W=qV\)を用いて計算することができます。古典力学のときと考え方は同じで、粒子に与えた仕事の大きさが粒子が得た運動エネルギーになりますので、
\(K=eV\)
となります。このときの運動エネルギーですが、例えば電子1つの電気量(電気素量)を\(q=1.6×10^{-19}[C]\)、加速電圧を\(V=1[V]\)とすると、
\(K=eV=1.6×10^{-19}[J]\)
となります。
今後、原子分野では電子1つ、とか電子数個が集まったイオンとか、そのくらいのサイズ感で話を進めることになりますので、扱う数字の大きさがだいたい\(10^{-19}\)くらいの桁になります。
エレクトロンボルト
あまりにも数字のサイズ感が小さいですので、大きさの感覚がつかみにくくなってしまいます。
例えば、同じ1万倍の差だったとしても、\(10^3\)と\(10^{-1}\)だと大きさが違うことが感覚としてもわかりやすくなります。ところが\(10^{-19}\)と\(10^{-15}\)だと、どちらもすごく小さい、というイメージしかなくて数字感覚にズレが生じることがあります。
そこで、今後も小さい数字が連続するのが分かり切っていますので、新たに「エレクトロンボルト(電子ボルト)」という単位を作ることにします。
この単位は今の例のように、一番基本単位となる、「電子1つを\(1V\)で加速したときに電子が得る運動エネルギー」を「1」と定め、単位の記号には[\(eV\)]を用いることにします。
エレクトロンボルトの換算練習
問:\(2.0V\)の電圧で電子を加速したときに電子1個が得るエネルギーを以下の単位で求めなさい。電気素量を\(e=1.60×10^{-19}[C]\)とする。
(1) \([eV]\) (2) \([J]\)
(1)エレクトロンボルトの計算は単位[eV]が、たまたま計算公式をそのまま表しています。電気素量を使うことなく、電子1つは単に\(e=1\)、電子2つなら\(e=2\)として考えます。
\(E=e×V\) と解釈して、
\(E=1×2.0=2.0[eV]\)
(2)ジュールの計算のときには、電気素量を使います。
\(E=e×V\) より
\(E=1.60×10^{-19}×2.0\)
\(E=3.2×10^{-19}[J]\)
となります。
よって答えは、
(1) \(2.0[eV]\) (2) \(3.2×10^{-19}[J]\)