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1991阪大Ⅰ

■解答

(1) \(v=R\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R+h}}\)  (2) \(U=-\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h)}\)

(3) \(h'=h-\displaystyle\frac{2(R+h)^2\Delta U}{mgR^2+2(R+h)\Delta U}\) \(v'=\sqrt{\displaystyle\frac{gR^2}{R+h}+\frac{2\Delta U}{m}}\) \(h'<h\) \(v'>v\)

(4) \(\Delta U=mgR\left[ 1-\left(\displaystyle\frac{\pi ^2 R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\right]-\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}\)

■解説

 

▼公式確認

 万有引力

  \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)

 

 万有引力による位置エネルギー(無限遠点基準)

  \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

 万有引力定数の変換式

  \(GM=gR^2\)

 

 

(1)

等速円運動の運動方程式より、

 

 \(m\displaystyle\frac{v^2}{R+h}=G\frac{Mm}{(R+h)^2}\)

 

ここで、この問題では万有引力定数\(G\)が使えませんので、今後\(G\)が必要になるときにはすべて\(GM=gR^2\)を使って書き換えていくことにします。すると、

 

 \(m\displaystyle\frac{v^2}{R+h}=\frac{mgR^2}{(R+h)^2}\)

 

よって 

 

 \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{gR^2}{R+h}}=R\sqrt{\displaystyle\frac{g}{R+h}}\)

 

解答は同義であれば正解になります。よほどあからさまに途中式でない限りはどちらも正解としてもらえるでしょう。

 

 

(2)

 \(E=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2-G\frac{Mm}{R+h}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{m}{2}・\frac{gR^2}{R+h}-\frac{mgR^2}{R+h}\)

 

  \(=-\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h)}\)

 

一般に、万有引力の分野でのエネルギー問題では無限遠点を基準に取ることが多く、そこからどの天体を考えるにしても物体や人工衛星などは、無限遠点から「落ちた」位置に存在していることになりますので、ほぼ確実にエネルギーの和は負になります。

計算してみて、値が負になっていなければ見直すのが得策かと思います。

 

 

(3)

これは現象として知っておいてほしいのですが、円軌道は半径が小さいところほど早く動きます。太陽系の惑星をイメージしてもいいでしょうし、お風呂の湯を流すときの水の流れを考えてもいいでしょうし、台風の風の動きで考えてもいいと思います。

落下する物体は高さを低くしながら、どんどん加速していき、らせん軌道を描いて落下していきます。

 

万が一計算がきちんと追えなくても、\(h'<h\)と\(v'>v\)は正解しておきたいですね。

 

エネルギーを失った結果、\(h\)が\(h'\)となり、\(v\)が\(v'\)となる、とありますので、文字を書き換えていきましょう。

 

 \(E-\Delta U=-\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h')}\)

 

 \(\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h')}=\Delta U+\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h)}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{2(R+h)\Delta U+mgR^2}{2(R+h)}\)

 

 \(R+h'=\displaystyle\frac{mgR^2}{2}・\frac{2(R+h)}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{mgR^2 (R+h)}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}\) ―――(*)

 

 \(h'=\displaystyle\frac{mgR^2 (R+h)}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}-R\)

 

  \(=\displaystyle\frac{mgR^2 (R+h)-2R(R+h)\Delta U -mgR^3}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{mgR^2h-2(R^2+2Rh+h^2)\Delta U +2h(R+h)\Delta U}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}\)

 

  \(=h-\displaystyle\frac{2(R+h)^2\Delta U}{2(R+h)\Delta U+mgR^2}\) \((<h)\)

 

この式変形も、「\(h'\)を求めよ」という問に対する答えとしては、最初のマイナス\(R\)で終わらせた解答で正解がもらえるような気はします。ただ\(h'\)と\(h\)の大小関係を「示せ」という問いに対する答えとしては自明ではなさそうなので、少し式変形をして、一目で大小関係が分かるように無理やり式を加工する、という指針で計算を進めました。

 

また、(1)より

 

 \(v'=\sqrt{\displaystyle\frac{gR^2}{R+h'}}\)

 

となり、\(h'<h\)より、\(v'>v\)もすぐわかりますね。

この式の分母\(R+h'\)に(*)式をまとめて代入すると、

 

 \(v'=\sqrt{gR^2・\displaystyle\frac{2(R+h)\Delta U+mgR^2}{mgR^2(R+h)}}\)

 

  \(\sqrt{\displaystyle\frac{2(R+h)\Delta U+mgR^2}{m(R+h)}}\)

 

  \(\sqrt{\displaystyle\frac{2\Delta U}{m}+\frac{gR^2}{R+h}}\)

 

 

(4)

この問では(1)~(3)で考えていた人工衛星とは別に、地表にある人工衛星について考えます。なので、前問までで用いた\(h\)と\(v\)を使わずに、リード文にある\(R\)、\(M\)、\(g\)、それから問にある\(m\)、\(T\)の文字のみで答える問題だ、と考えるといいでしょう。

 

ただ、式変形の方法は同じ部分が多いので、前問までの式の形のうち、使えそうなところは使っていきます。

地上での人工衛星の速さを\(v_G\)、静止軌道での人工衛星の速さを\(v_g\)、静止軌道面の地上からの高さを\(h_g\)とします。

添え字は別になんでもいいんですが、地上(Ground)、静止軌道(geostationary orbit)からつけることにしました。

 

この先の式変形ですが、静止衛星の運動を考える際に、地球中心からみたときの速さを考えて円運動方程式なりを立てたりしますので、地上で打ち上げられる人工衛星も、地球中心から見たときには速さをもって等速円運動している、と考えてください。

 

円運動している地上の人間から計算を進めると、バウムクーヘンのような座標軸や遠心力のような見かけの力など、余分に考えを張り巡らさなければいけないことが出てきますので、全部地球中心視点で解きます。

 

 

地上の人工衛星と、静止衛星の周期は同じになることから、

 

 \(T=\displaystyle\frac{2\pi R}{v_G}=\frac{2\pi (R+h_g)}{v_g}\)

 

ここから、それぞれの速さは、

 

 \(v_G=\displaystyle\frac{2\pi R}{T}\)  \(v_g=\displaystyle\frac{2\pi(R+h_g)}{T}\)

 

となります。地上における力学的エネルギーは

 

 \(E_G=\displaystyle\frac{1}{2}mv_G^2-G\frac{Mm}{R}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{m}{2}・\frac{4\pi^2R^2}{T^2}-\frac{gR^2・m}{R}\)

 

  \(=\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}-mgR\)

 

一方、静止衛星でも同じ変形をすると、(2)の手続きを経て、

 

 \(E=-\displaystyle\frac{mgR^2}{2(R+h_g)}\)

 

となり、\(h_g\)が残ってしまいますので、周期で表した形に変形します。ところが\(v_g\)も使えませんので、さらにさかのぼって(1)の円運動方程式から\(v_g\)も求めます。

(1)より

 

 \(v_g^2=\displaystyle\frac{gR^2}{R+h_g}\)

 

また、周期の式より

 

 \(v_g=\displaystyle\frac{2\pi(R+h_g)}{T}\)

 

よって

 

 \(\displaystyle\frac{gR^2}{R+h_g}=\frac{4\pi^2(R+h_g)^2}{T^2}\)

 

 \((R+h_g)^3=\displaystyle\frac{gR^2T^2}{4\pi ^2}\)

 

これを元の\(E\)の式に代入して

 

 \(E=-\displaystyle\frac{mgR^2}{2}・\left(\displaystyle\frac{4\pi^2}{gR^2T^2}\right)^{\frac{1}{3}}\)

 

  \(=-mgR\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\)

 

 

さて、それぞれの軌道での力学的エネルギーの値が出たら、その差分が必要なエネルギーですので、

 

 \(\Delta E=E-E_G\)

 

  \(=-mgR\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}-\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}+mgR\)

 

  \(=mgR\left[1-\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\right]-\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}\)

 

 


〔赤本の解答の[参考]の部分の記述について〕

ここで、地上における力学的エネルギー

 

 \(E_G=\)\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_G^2\)\(-G\frac{Mm}{R}\)

 

  \(=\)\(\displaystyle\frac{m}{2}・\frac{4\pi^2R^2}{T^2}\)\(-\frac{gR^2・m}{R}\)

 

  \(=\)\(\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}\)\(-mgR\)

 

の第一項は、地上から見て静止していると考えればゼロになります。

つまり、

 \(E_G=-mgR\)

ですね。

 

これを、最後の差分の式で見てみると、

 

 \(\Delta E=E-E_G\)

 

  \(=-mgR\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\)\(-\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}\)\(+mgR\)

 

  \(=mgR\left[1-\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\right]\)\(-\displaystyle\frac{2\pi^2mR^2}{T^2}\)

 

の最後の項がゼロとなりますので、

 

 \(\Delta E=mgR\left[1-\left(\displaystyle\frac{\pi^2R}{2gT^2}\right)^{\frac{1}{3}}\right]\)

 

ということになるんですね。赤本の解答だと、これも解釈によっては解答としていいのではないか、と提案していますが、静止衛星の方についての式変形を何もしていませんので、もし地上の観測者を起点として問題を解くのであれば、静止衛星の方の式も何らかの変形が必要になるような気はします。

 

やってみたわけではないので正確な値までは言えないですが、上の式では解釈としては「地上の運動エネルギーはゼロとするが、静止衛星の運動エネルギーは地球中心から見た値を用いる」となっていますので、不一致になり、不正解ではないかと思います。

 

 \(\Delta E=\)(上空での運動E+上空での位置E)-(地上での運動E+地上での位置E)

 

という関係式において、地上での運動エネルギーだけをゼロにするのは良くなくて、上空での運動エネルギーにも何らかの変形を加えなければ成立しないのではないか、ということです。