核融合
2個以上の軽い原子核が反応して、1つの原子核に融合することを「核融合」といいます。これは、主に恒星の内部で起きているような反応です。
ウランなどの重たい原子核が分裂して、より安定な原子核になることを核分裂といいました。このとき、分裂することで質量欠損が生じてエネルギーを放出します。しかし、水素や重水素、リチウムのような軽い原子核の場合は、お互いが結合した方が安定するので、原子核が融合することで質量欠損が生じてエネルギーを放出する、という特性があります。
重たい原子核は分裂し、軽い原子核は融合し、最終的にどこが最も安定になるかというと、「鉄」です。なので、宇宙空間に何らかの原子が存在し、核分裂や核融合を繰り返していくと、最終的には鉄塊になりますので、地球の中心や金星などの岩石型の惑星の中心は鉄で構成されています。宇宙に存在する物質はものすごく長い時間が経過すると、気体だろうと固体だろうと、もしかしたら最終的にはすべて鉄になるのかもしれません。
核融合は核分裂と違い、反応を起こすには大きなエネルギーが必要になります。核分裂の場合は中性子を高速で衝突させることで起こりますが、核融合の場合は陽子に陽子をぶつける、というような反応を考えるとわかるように、プラスの電荷にプラスの電荷を衝突させなければいけませんので、静電気力に打ち勝つだけの十分大きなエネルギーを与えないと、起こりえない反応です。
この運動エネルギーは、温度でいうと\(10^7[K]\)ほどのエネルギーに相当します。このような熱運動による核反応を「熱核融合反応」といいます。
太陽で起こる核融合
太陽の表面温度ですら\(6000[K]\)ほどですので、核融合をするには少し温度が足りません。太陽の中心部では\(2×10^7[K]\)程度の温度になりますので、この付近では核融合が起こります。
この場所では、高温であることに加えて、高圧、高密度です。このような環境では原子核は電子と分離してしまって、それぞれ単独で存在している状態になります。このような状態をプラズマといいます。固体、液体、気体のどれでもない状態です。
このようなプラズマの状態の原子核同士が衝突すると、核融合反応が起こります。
太陽で起こる核融合は、核融合のなかでは比較的低温で起こる反応です。この機構は、重水素と三重水素を衝突させて、ヘリウムと中性子を生成させるという反応です。重水素とは、陽子1つと中性子1つがくっついた物質を言います。また、三重水素とは陽子1つに中性子2つがくっついた物質です。
これらの衝突による核反応式は、
\(^2_1H + ^3_1H \rightarrow ^4_2He + ^1_0n + 17.6[MeV]\)
という形になります。
重水素(Deuterium:ジューテリウム)と、三重水素(Tritium:トリチウム)の頭文字をとって、「DT反応」と呼ばれることもあります。なので、核反応式を簡易的に、
\(D + T \rightarrow ^4He + n + 17.6[MeV]\)
のように書くこともあります。
太陽程度の質量の恒星や、太陽よりも軽い恒星では、このように陽子同士が直接衝突して連鎖的に核融合を繰り返し、最終的にヘリウムに到達しますので、「陽子ー陽子連鎖反応」あるいは「pp連鎖反応」「ppチェーン」という呼ばれ方がされたりします。
いずれも熱を放出しますので「熱核融合反応」です。
CNOサイクル
太陽の場合は、核融合の中でも低温で起こる部類だ、という話をしましたが、太陽よりも大きい質量の恒星では、また別のタイプの核融合が起きています。
恒星といえば、その中心には水素やヘリウムのみが存在するイメージがありますが、核融合を繰り返していくと最終的には鉄に行きつきますので、大きい恒星であれば内部に炭素原子や窒素原子、酸素原子を含んでいるものもあります。
核融合の過程で、これら炭素原子や窒素原子、酸素原子を介して反応を進めるような核融合を「CNOサイクル」といいます。
1937年頃、ベーテとヴァイツゼッカーが、これらの機構を提唱し、ベーテは1967年に核反応理論への貢献としてノーベル物理学賞を受賞しています。
CNOサイクルの過程について簡易的に見ていきましょう。
① 炭素に水素原子が衝突
\(^1_1H + ^{12}_6C \rightarrow ^{13}_7N\)
② 生成された窒素原子はわずか7分ほどで炭素に崩壊
\(^{13}_7N \rightarrow ^{13}_6C + e^+ + \nu_e\)
③ 炭素に再び水素原子が衝突
\(^1_1H + ^{13}_6C \rightarrow ^{14}_7N\)
④ 窒素に水素原子が衝突
\(^1_1H + ^{14}_7N \rightarrow ^{15}_8O\)
⑤ 生成された酸素原子はわずか1分半ほどで窒素に崩壊
\(^{15}_8O \rightarrow ^{15}_7N + e^+ + \nu_e\)
⑥ 窒素に水素原子が衝突し、ここでヘリウムが生成
\(^1_1H + ^{15}_7N \rightarrow ^{12}_6C + ^4_2He\)
ヘリウムでない方の炭素は①に戻り、再びCNOサイクルは回っていく、という機構です。
結局、サイクル1周分を見てみると、水素原子4つからヘリウム原子を構成し、エネルギーを放出した、ということになりますので、上記のサイクルをまとめると、
\(4^1_1H \rightarrow ^4_2He + 2e^+ + 2\nu_e + 26.7[MeV]\)
という反応になります。水素原子からヘリウム原子が作られる、という点では太陽と変わりはないのですが、その反応過程に炭素、窒素、酸素が関係しているというところが、太陽にはない核融合の機構となっています。
これらの話は入試とはもはや関係ない、単なる興味としての話です。入試に出る出ないのレベルの話であれば、冒頭に書いた、
2個以上の軽い原子核が反応して、1つの原子核に融合することを「核融合」といいます。
くらいの知識で十分かなとは思います。