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2022京工繊Ⅲ

前半部分は気体分子運動論のオーソドックスな問題なので、得点していきたいところです。

後半部分では前半部分と独立してピストン中の気体の熱力学諸現象を問うていますので、前半の気体分子運動論が解けなかった場合も、途中復活が可能な出題構成となっています。

 

 

(ア)

3成分ありますが、衝突に関与しているのは\(z\)成分だけです。

運動量の変化から力積を計算すると

 \(2mv_z\)

 

 

(イ)

「ピストンと衝突した分子が他の壁に衝突して再びピストンに衝突するまでの時間」とあります。

 気体分子は一般的には3成分とも値をもって運動しているでしょうから、\(z\)軸上を直線状に運動していることはほぼありません。なので、ピストンと衝突したあとの分子は、次の衝突が底面のものもあるでしょうが、側面に衝突する分子もあるはずです。

 ですが、底面にせよ側面にせよ、衝突が完全弾性衝突となりますので、仮に側面に衝突しても分子速度の\(z\)軸成分が変化することはありません。

 なので、問題集や教科書で見慣れているとおり、\(z\)軸方向への往復距離\(2l\)と、分子速度\(v_z\)から、

 \(\displaystyle\frac{2l}{v_z}\)

 

とすることができます。

 

 

(ウ)

ピストンに1回衝突するための時間間隔が求まりましたので、これが1秒間ではどのくらいの衝突回数になるのかを一旦計算しておきます。

 \(1[回] : \displaystyle\frac{2l}{v_z}[s] = n[回] : 1[s]\)

から

 \(\displaystyle\frac{2l}{v_z}n=1\)

 

 \(n=\displaystyle\frac{v_z}{2l}\)

 

なので、時間\(t\)の間での衝突回数は

 \(\displaystyle\frac{v_zt}{2l}[回]\)

 

となります。

 

 

(エ)

1分子がピストンに加える力積の合計は、(ア)の力積と、(ウ)の衝突回数の積を取ることで求めます。

 \(\overline{f}t=2mv_z・\displaystyle\frac{v_zt}{2l}\)

 

 \(\overline{f}=\displaystyle\frac{mv_z^2}{l}\)

 

 

(オ)

\(N\)個の分子なら(エ)の\(N\)倍なので、

 \(F=\displaystyle\frac{Nm\overline{v_z^2}}{l}\)

 

ここで、静かに\(v_z^2\)が平均化されて\(\overline{v_z^2}\)とされていますが、実体は単純に線を引いたわけではなく、計算された結果、そうなっています。分子の速さがそれぞれ異なりますので、その二乗値の平均を計算してみると、

 \(\overline{v^2}=\displaystyle\frac{v_1^2+v_2^2+v_3^2+…}{N}\)

となります。分子の総和を個数で割ることになりますね。

これを移項することで、

 \(N\overline{v^2}=v_1^2+v_2^2+v_3^2+…\)

が現れますが、実体としてはこの計算過程を使って平均のバー付きの式を導出しています。

 ただ、この問題ではここまで深く考えず問題文に指示されている通り、表記にバーをつけてくださいね、という程度の読解力で十分です。

 

 

 

(カ)

圧力は力を面積で割ればいいので

 \(p=\displaystyle\frac{F}{S}\)

  \(=\displaystyle\frac{Nm\overline{v_z^2}}{l^3}\)

 

 

(キ)

分子運動の等方性から、どの成分の二乗速度も平均を取ってしまえば値は等しいとみなせるので

 \(\overline{v^2}=\overline{v_x^2}+\overline{v_y^2}+\overline{v_z^2}\)

 \(\overline{v^2}=\overline{v_z^2}+\overline{v_z^2}+\overline{v_z^2}\)

 \(\overline{v^2}=3\overline{v_z^2}\)

より

 \(p=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3l^3}\)

 

 

(2)

分子の総個数\(N\)はモル数\(n\)を使って表すと、\(1mol\)あたり\(6×10^{23}\)個の粒子である関係から思い出すことができて、

 \(N=nN_A\)

 

また、分子量\(M_0\)から分子1つの質量\(m\)を表す場合も、分子1つの質量を\(6×10^{23}\)個集めたときの質量が分子量である関係から思い出すことができて、

 \(M_0=mN_A\)

 

となります。これは化学基礎の考え方ですが、単位系が\([g]\)単位になっていることに注意してください。

分子量\(M_0\)は\([g]\)単位ですが、モル質量\(M\)は\([kg]\)単位です。

\(1kg=1000g\)なので、\(M[kg]=1000M_0[g]\)です。

この関係から、

 \(M_0=M×10^{-3}\)

としてやれば、与えらえたグラム単位の分子量\(40.0\)を適切にキログラム単位系の式に入れ込むことができます。

 

 \(p=\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3l^3}\)

  \(=\displaystyle\frac{nM\overline{v^2}×10^{-3}}{3l^3}\)

  \(=\displaystyle\frac{0.1・40・400^2×10^{-3}}{3×10^{-3}}\)

  \(=\displaystyle\frac{64}{3}×10^4\)

  \(≒2.13×10^5[Pa]\)

 

となりました。

 

温度の方は比較的簡単に求めることができます。

 \(pV=nRT\)より

 \(T=\displaystyle\frac{pV}{nR}\)

 \(T=\displaystyle\frac{10^{-3}}{0.1×8.31}・\frac{64}{3}×10^4\)

 

\(p\)の中身は\(2.13×10^5\)でもいいですが、念のため四捨五入前の分数表記の状態で代入しました。

 

 \(T=\displaystyle\frac{64}{3・8.31}×10^2\)

  \(=2.567...×10^2\)

  \(≒257[K]\)

 

 

(3ア)

ボイル・シャルル則から

 \(\displaystyle\frac{P_0l^3}{T_0}=\frac{P_0(l+\Delta l)l^2}{T}\)

 \(T=\displaystyle\frac{l+\Delta l}{l}T_0\)

 

分数のデザイン上、表記のぶれはいくらか取れますが、同義の式であれば採点上は不正解にできませんので可です。

 \(T=\left(1+\displaystyle\frac{\Delta l}{l}\right)T_0\)

としてもいいですし、

 \(T=T_0+\displaystyle\frac{\Delta l}{l}T_0\)

としても正解となるでしょう。

ついでですが、最後の表記に式変形しておくと、明確に

 \(\Delta T=\displaystyle\frac{\Delta l}{l}T_0\)

であることが分かるようになります。

 

 

(3イ)

定圧変化であり、かつ単原子分子の理想気体を考えているので、

 \(Q=nC_p\Delta T\)

 \(Q=\displaystyle\frac{5}{2}nR\Delta T\)

 

ここで、ボルツマン定数を引っ張ってきます。

ボルツマン定数の意味は「1分子あたりの気体定数」と覚えておきましょう。

 \(k=\displaystyle\frac{R}{N_A}\)

ですので、

 \(Q=\displaystyle\frac{5}{2}nN_Ak\Delta T\)

 

\(\Delta T\)は(ア)で計算していますので、これを代入すると

 \(Q=\displaystyle\frac{5}{2}Nk\frac{\Delta l}{l}T_0\)

 

 

(3イ別解)

この設問は設定されている文字が多いので、いくつか別表現を取ることができます。

上に示した方法が最も単純でしょうが、熱力学第一法則を利用して、細分化して計算してもかまいません。

その場合は表記がぶれることになりますが、おそらく別解正解となります。

 \(\Delta U=\displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) より

 \(\Delta U=\displaystyle\frac{3}{2}Nk\frac{\Delta l}{l}T_0\)

また

 \(W=P_0\Delta V\) より

 \(W=P_0l^2\Delta l\)

これらから

 \(Q=\Delta U+W\)

 \(Q=\displaystyle\frac{3}{2}Nk\frac{\Delta l}{l}T_0+P_0l^2\Delta l\)

 

と表記することもできます。見るからに途中式のような状態ですが、すべて問題に設定されている文字ですので、こう表現しても不正解にはできないことになってしまいます。

どちらも正解です。

 

 

(4)

ピストンにはたらく力のつり合いの式から

 \(P_0l^2+Mg=Pl^2\)

 \(P=P_0+\displaystyle\frac{Mg}{l^2}\)

 

温度の方はボイル・シャルル則より

 \(\displaystyle\frac{P_0l^2(l+\Delta l)}{T}=\frac{Pl^3}{T'}\)

 \(P_0l^2(l+\Delta l)・\displaystyle\frac{l}{(l+\Delta l)T_0}=\frac{(P_0l^2+Mg)l^3}{T'l^2}\)

 \(\displaystyle\frac{P_0}{T_0}=\frac{P_0l^2+Mg}{T'l^2}\)

 \(T'=\displaystyle\frac{T_0}{P_0}・\frac{P_0l^2+Mg}{l^2}\)

 \(T'=T_0+\displaystyle\frac{MgT_0}{P_0l^2}\)

 

となります。これも同義の式であれば正解ですので、多少の表記のぶれは許容範囲です。

デザインの上では\(T_0\)をくくっておくのがいいかもしれません。

くくらずに置いているのは、\(\Delta T'=\displaystyle\frac{Mg}{P_0l^2}T_0\)が一目で分かるようにするためです。

 

 

(5)

熱力学第一法則より、断熱変化なので

 \(W=\Delta U\)

 \(W=\displaystyle\frac{3}{2}Nk\Delta T'-\frac{3}{2}Nk\frac{\Delta l}{l}T_0\)

  \(=\displaystyle\frac{3}{2}Nk\left(\displaystyle\frac{Mg}{P_0l^2}T_0-\frac{\Delta l}{l}T_0\right)\)

  \(=\displaystyle\frac{3}{2}NkT_0\left(\displaystyle\frac{Mg}{P_0l^2}-\frac{\Delta l}{l}\right)\)