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空気抵抗を受けて落下する物体

粘性抵抗

物体の速さが遅いとき、物体は水と物体との間の摩擦力など、流体の粘性に起因する抵抗を受けます。このとき、流体の状態は層流と見なせます。

 

このときの抵抗力の大きさ\(f_1\)は、速さ\(v\)に比例して、

 

 \(f_1=k_1v\) (\(k_1\)は比例定数)

 

と表すことができます。これを、「粘性抵抗」あるいは「摩擦抵抗」といいます。

 

特に、物体の半径が\(r\)の球であれば、

 

 \(f_1=6\pi r \eta v\) (\(\eta\)は粘性率)

 

と表すことができ、これは\(Stokes\)の法則として知られています。

粘性率\(\eta[Pa・s]\)は、たとえば20℃のとき、空気なら\(1.82×10^{-5}[Pa・s]\)、水なら\(1.00×10^{-3}[Pa・s]\)、グリセリンなら\(1.49×10^3[Pa・s]\)という数値をとります。

 

慣性抵抗

粘性抵抗に対し、物体の速さが速いとき、物体は粘性抵抗に加えて、圧力による抵抗も受けます。このとき、流体の状態は乱流となっています。

 

このときの抵抗力の大きさ\(f_2\)は、速さ\(v^2\)に比例して、

 

 \(f_2=k_2v^2\) (\(k_2\)は比例定数)

 

と表すことができます。これを、「慣性抵抗」あるいは「圧力抵抗」といいます。

 

 \(f_2=\displaystyle\frac{1}{2}C\rho S v^2\) (\(\rho\)は流体密度、\(C\)は比例定数、\(S\)は断面積)

 

と表すことができ、これは「ニュートンの抵抗法則」と言います。

分野としては流体力学のベルヌーイの定理や、クッタ・ジュコーフスキーの定理なども関連がある話です。

 

終端速度

物体が空気抵抗を受けながら自由落下すると、やがて重力と抵抗力がつり合って、等速直線運動となります。

このときの速度を「終端速度」といいます。

 

終端速度の計算は比較的単純で、空気抵抗と重力がつりあえばいいだけの話ですから、慣性抵抗を受けながら落下していると考えれば、

 \(kv_f=mg\) より

 

 \(v_f=\displaystyle\frac{mg}{k}\)

 

で、これで導出はおしまいです。

 

終端速度に達するまでの速度

ところが、終端速度に達するまでの速度や位置、高さなどを計算しようとすると、途端に難しくなってしまいます。

今回は、その「途端に難しい」にチャレンジしてみようと思います。

 

空気抵抗は慣性抵抗のみを受けるものとして考えることにしましょう。また、物体は空気中にありますが、空気から受ける浮力は落下の要素に対して十分小さく、無視できるものとしておきましょう。

 

 

終端速度に関する運動方程式を立てると、

 

 \(m\dot{v}=m\displaystyle\frac{dv}{dt}=mg-kv\)

 

これを\(v\)と\(t\)に変数分離すると、

 

 \(\displaystyle\frac{m}{k}・\frac{dv}{dt}=\frac{mg}{k}-v\)

 

 \(\displaystyle\frac{dv}{\frac{mg}{k}-v}=\frac{k}{m}dt\)

 

この両辺を積分すると、

 

 \(\displaystyle\int \frac{dv}{\frac{mg}{k}-v}=\int\frac{k}{m}dt\)

 

ここで、

 

 \(\displaystyle\frac{mg}{k}-v=x\)

 

とおくと、(両辺を微分した形が)

 

 \(-dv=dx\)

 

となるので、

 

 \(-\displaystyle\int \frac{dx}{x}=\int\frac{k}{m}dt\)

 

 \(-\log|x|=\displaystyle\frac{k}{m}t+C\) (\(C\)は積分定数)

 

 \(-\log\left|\displaystyle\frac{mg}{k}-v\right|=\displaystyle\frac{k}{m}t+C\)

 

 \(\left|\displaystyle\frac{mg}{k}-v\right|=e^{-\frac{k}{m}t+C}\)

 

 \(\left|\displaystyle\frac{mg}{k}-v\right|=e^{-C}・e^{-\frac{k}{m}t}\)

 

となります。運動のスタートでは、初速度ゼロであるとしましょう。これを初期条件といいます。

初期条件は\(t=0\)のとき、\(v_0=0\)であるとすると、

 

 \(e^{-C}=\displaystyle\frac{mg}{k}\)

 

となりますので、これを代入することで積分定数を消滅させることができます。

よって

 

 \(\left|\displaystyle\frac{mg}{k}-v\right|=\frac{mg}{k}・e^{-\frac{k}{m}t}\)

 

落下中の物体の抵抗力は、\(mg>kv\)となっていますので、左辺の絶対値はそのまま外すことができます。

よって、

 

 \(\displaystyle\frac{mg}{k}-v=\frac{mg}{k}・e^{-\frac{k}{m}t}\)

 

 \(v=\displaystyle\frac{mg}{k}\left(1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)\)

 

と変形することができます。

これが、空気抵抗を受けながら落下する物体の、速度の式ということになります。

 

ちなみに、十分時間が経過したとすると、\(t\rightarrow \infty\)と極限をとることになり、

 

 \(\displaystyle\lim_{t \to \infty} v=\lim_{t \to \infty} \frac{mg}{k}\left(1-e^{-\frac{k}{m}t}\right)\)

 

  \(=\displaystyle\frac{mg}{k}\)

 

となり、ちゃんと終端速度が求まるようになっています。