マクローリン展開とは
物理の公式には様々なものがありますが、その計算の大概は実験の測定と結びついています。
理論上の計算式の扱いは難なくこなすことができても、いざ実際の数値はいくらになるんですか?という部分に立ち入ると、途端に計算が難しくなってしまいます。
たとえば、\(\sin 0.1\) (0.1はラジアン)はいくらですか? \(e^{0.1}\)だとどうですか?
\(\sin 0.1≒0.1\)と近似したとき、小数点下何桁目まで近似が成立しているとみなせますか?
こういった問題を扱うとき、「マクローリン展開」というワザを使うと便利です。
マクローリン展開とは、簡単に言うと、三角関数や指数関数など、さまざまな種類の関数を、全部多項式で表してしまおう!という変換のことです。
多項式にすることで、直接的に2乗や3乗などを扱うことができますので、三角関数表も対数表も持ってこなくても、その場で電卓さえあれば計算できてしまいますし、頑張れば手計算も可能となってしまうんですね。
マクローリン展開の例
有名な関数のマクローリン展開として、次のようなものがあります。
\(e^x=1+x+\displaystyle\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+…\)
\(\sin x=x-\displaystyle\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-...\)
\(\cos x =1-\displaystyle\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}^...\)
\(\log(1+x)=x-\displaystyle\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-...\)
※ただし、\(\log(1+x)\)は\((-1<x≦1)\)の範囲でのみ成立する式
このように、指数関数も三角関数も対数関数も、全部多項式に変えてしまうわけです。
先ほどの例でいうのであれば、\(x=0.1\)を代入すれば、
\(e^{0.1}≒1+0.1+\displaystyle\frac{0.01}{2}+\frac{0.001}{6}\)
\(≒1+0.1+0.005+0.0001666...\)
\(≒1.105167\)
となります。実際の値は、
\(e^{0.1}=1.105170918...\)
ですので、手計算でここまでの精度を出せるのは画期的と言っても言い過ぎではないでしょう。
より正確に出したければ、第5項、第6項までどんどん追加して展開すればいいので、必要なところまで計算をする、ということになります。
マクローリン展開の式
そんなマクローリン展開の式ですが、次のように書かれます。
\(f(x)=\displaystyle\sum ^\infty_{k=0}f^{(k)}(0)\frac{x^k}{k!}\)
この式が成立するためには前提として、
① 関数が無限回微分できること(ゼロは微分してゼロなので微分可と考える)
② 右辺が収束しなければならないこと
③ ①②を満たして、かつ左辺と一致していること
などの条件がありますが、通常物理で使う分には特に気にしなくてもいいです。
そして何より、物理で使うときには、右辺の多項式を無限に増やすことはありません。
近似として利用するだけですので、3項とか4項とか、その程度まで考えたら、残りはゼロであるとしてしまって、式を打ち切りにします。なので等式変形するという考え方とは少し違います。
\(f(x)\)を微分すると、通常、プライムをつけて\(f'(x)\)のように書きます。書きますというか、そう書くことに慣れているかと思います。
二階微分(二回ではない)をすると\(f''(x)\)、三階微分すると\(f'''(x)\)というように、プライムを増やして書きますね。
ですが、このままだと、例えば10階微分すると\(f''''''''''(x)\)と書かなくてはいけないことになり、非常に気持ち悪いですし、書くのも読むのもめんどくさいです。
そこで、微分の階数が増えたときには\(f^{(10)}(x)\)のように表記することにします。
初めに表記した公式の肩についている謎の\(^{(k)}\)は、微分の階数のことを意味しています。
これをふまえて、マクローリン展開の式をサメーション(シグマ)を使わずに表記すると、
\(f(x)=\displaystyle\sum ^\infty_{k=0}f^{(k)}(0)\frac{x^k}{k!}\)
\(f(x)=f(0)+f'(0)x+\displaystyle\frac{f''(0)}{2!}x^2+\frac{f^{(3)}(0)}{3!}x^3+\frac{f^{(4)}(0)}{4!}x^4+\frac{f^{(5)}(0)}{5!}x^5+...\)
と書くことになります。なので、\(f(x)=e^x\)なら、
\(e^x=e^0+e^0x+\displaystyle\frac{e^0}{2!}x^2+\frac{e^0}{3!}x^3+\frac{e^0}{4!}x^4+\frac{e^0}{5!}x^5+...\)
\(=1+x+\displaystyle\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^5}{5!}+...\)
となり、\(f(x)=\sin x\)なら、\(f(0)=0\)であり、
\(f'(x)=\cos x\) \(f'(0)=1\)
\(f''(x)=-\sin x\) \(f''(0)=0\)
\(f^{(3)}(x)=-\cos x\) \(f^{(3)}(0)=-1\)
\(f^{(4)}(x)=\sin x\) \(f^{(4)}(0)=0\)
なので、
\(f(x)=0+(1×x)+\displaystyle\frac{0}{2!}x^2+\frac{-1}{3!}x^3+\frac{0}{4!}x^4+\frac{1}{5!}x^5+...\)
\(f(x)=x-\displaystyle\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+...\)
となるわけです。