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電磁気8 静電誘導・誘電分極

静電誘導と箔検電器の仕組み

 金属のような導体に静電気を帯びた棒を近づけると、近づけられた側の金属表面に電荷が引き寄せられます。このような現象を「静電誘導」と言います。

 

 静電誘導が起こるとき、導体内部の電子は自由に動けるので、例えばマイナスに帯電したエボナイト棒を近づけると、近づけられた側の面にプラスの電気が集まり、反対側の面にマイナスが集まります。エボナイト棒というのは硬質のゴムで作られたゴム棒のことですよ。見た目が黒檀(こくたん)という木に似ているので、黒檀の英語「ebony」が名前の由来になってます。

 

 これを利用して作られた実験器具が「箔検電器」と言われるものです。静電気があるかないか、あるとすれば強めの静電気なのか、弱めの静電気なのかを確かめることができる実験器具です。

 

 箔検電器の金属板の近くにマイナスに帯電したエボナイト棒を近づけたとします。すると検電器の金属板にはプラスが誘導されて、マイナスの電気は反発して箔の方へ飛ばされます。ところが、箔が2枚あるので、それぞれマイナスの電気でいっぱいになると、箔同士で反発して箔が開く。すると、静電気を帯びているな、と確かめられるわけです。

 

 ところが、原理が簡単な分、壊れるのも簡単なのが箔検電器です。エボナイト棒を近づけたままの状態で、うっかり金属板に手があたってしまうと、箔にたまっていた負電荷が一瞬のうちに手を通過して逃げてしまいます。 マイナスの電荷はエボナイト棒で反発してるのに手が当たっただけで金属板の方に上がってこれるの?と疑問を持つかもしれませんが、半分は正解、半分は不正解です。実際、箔に集まってる電子がギューンと手の方まで戻ってくるわけじゃなくて、金属板内に残ってる電子が手を通過しているだけです。金属板内の電子が抜けると、箔に集まっていたマイナスにとっては金属板の方に余裕ができますから、上に移動すればプラスマイナスがつり合った状態を作ることができるわけです。

 

 で、結局、静電気を帯びたものが近づいてるのに箔は閉じている。もはやこれじゃあ箔検電器の意味がないですよね。あわてて手を離しても後の祭りです。手を離したあとは、金属板にプラスの電気が集まっているだけです。箔には、もはやプラスもマイナスもありません。

 

 ここでエボナイト棒を金属板から離してみます。金属板内に集まっていたプラスは、自分たち同士で反発し始めて、箔のほうにもいくらかがやってきます。すると少ないながらも2枚の箔にそれぞれプラスの電荷が集まることになるので、なんと箔は開いてしまいます。もうめちゃくちゃです。検電器の前には静電気を帯びたものが何もないにも関わらず箔検電器は開いてしまっているわけです。これでは話にならない。なんとか箔検電器を修理しなくては。

 

 でも大丈夫。すぐに壊れますが、すぐに直せます。もういちど金属板に意図的に触れてみましょう。ふたたび電気がつり合うように電流が手を通じて一瞬流れて、箔は閉じてきちんとリセットされます。これで箔はプラスにもマイナスにも帯電していない、最初の状態に戻ることができました。

 

 

誘電体

 不導体にも、帯電した物体を近づけると表面に電荷が集まります。ただ、不導体のもってる電子の大半は自由電子ではなくて束縛電子なので、原子1個ずつの範囲内で、プラスとマイナスに片寄りができるにとどまります。

 

 こういう風に、原子の内部で電気的な片寄りを持つことを「分極」と言って、化学でも使う用語です。水分子に含まれる水素原子は、酸素の方に分極されてる、というような説明がされたりします。物理でもこの分極を扱うわけですが、電気の力で分極を引き起こすので、この現象を特に「誘電分極」と言います。

 

 また、誘電分極が起こるもの、つまり不導体や一部の半導体のことですが、これらをひっくるめて「誘電体」と言います。  ポイントをまとめておきます。

 

導体で見られるのが「静電誘導」

不導体や半導体で見られるのが「誘電分極」

そして、「誘電分極」が起こる物質を「誘電体」

 

と言います。

 

 

静電遮蔽(シールド)

 静電誘導に話を戻します。マイナスに帯電したエボナイト棒を金属に近づけたとき、金属の表面に正電荷が集まって、反対側の面には負電荷が集まります。すると、導体内部では、これらの誘導された電荷の間で電場が生じるので、導体外部が作り出す電場と導体内部で作られる電場が打ち消し合って、電場が0の状態になります。

 

 このような現象を「静電遮蔽」もくしは「シールド」と呼びます。

 

 例えばあなたが今、車に乗っていたとして、雷が車に落ちたとします。雷は車の外側の金属の部分を伝わって地面まで流れていくので、車の中のあなたには電流は少しも流れません。このとき、車の中のあなたは「静電遮蔽」によって電場が0のところにいるので、電流が少しも流れません。このように空洞のある金属の内部は電気的に遮蔽された状態になるんです。これが静電遮蔽。