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電磁気7 導体・不導体・半導体

自由電子と束縛電子

 自由電子という言葉は聞いたことがあると思います。金属中を自由に動き回る電子のことで、電流の正体であると中2のときに習ったんじゃないでしょうか。

 

 一方の束縛電子というものは初めて耳にすると思います。 原子は周囲に電子を従えていて、内側から順にK殻、L殻、M殻という風に名づけられています。このうち、K殻のように原子核に近い電子殻に存在する電子は、ちょっとやそっとのエネルギーでは殻を外れることができません。 こんな風に原子核の近くに存在して、高エネルギーを与えないと軌道を外れることができないような電子のことを「束縛電子」と呼びます。

 

 それに対して、M殻やN殻のように、かなり外側の軌道に存在する電子は、少しのエネルギーで軌道を外れることができて、自由に動くことができます。こういう電子を「自由電子」と呼ぶことにしました。 実際には、何殻からが自由電子で、何殻までが束縛電子です、という分け方をしているわけではなくて、単に原子核につかまってるから束縛電子だ、とか、流れてるから自由電子だ、というように見ますので、M殻の中に束縛電子と自由電子が共存していてもいいわけです。さっきまで束縛電子だったのに、電圧をかけたら自由電子に変わった、ということだってあります。

 

導体・不導体・半導体

 電流が流れやすい物質を導体と呼びます。電流が流れにくい物質は不導体(絶縁体)、その間くらいの流れやすさをもつ物質は半導体と呼ぶことにします。

 

 たとえば導体についてですが、電流が流れやすいということは、抵抗が小さいということです。抵抗の大きさは具体的には\(R=\displaystyle\frac{\rho L}{S}\)で表すんでしたよね。\(S\)が抵抗の断面積で、\(L\)が抵抗の長さ、そして\(\rho\)は抵抗率を示します。この3つの要素の中で、電流が流れやすいことを表す具体的な物理量は抵抗率\(\rho\)です。

 

 \(\rho\)は物質の種類に応じて決まってくる量です。\(\rho\)が高いか低いかということで、導体か不導体かを見分けることもできます。 だいたい\(\rho\)が\(0~10^{-6}\)くらいまでの小さな量であれば導体であると説明されます。一方で不導体であるなら\(\rho\)は\(10^8\)より大きい桁でなければ流れにくいとは言い切れません。その中間にある\(10^{-6}~10^8\)までの桁の領域の抵抗率を持つ物質は、まあ流れるといえば流れるけど、発熱もするし、だいぶ頑張らないと流れないし、導体っていうにはちょっと微妙だけど、不導体っていうほど流れにくいわけでもないしな、という中途半端な電流の流れ方をします。そこで半導体という新しい区分に組み込むことにします。

 

半導体

 半導体には不思議な特性があります。ふつう導体に電流を流すと、自由電子が通過することで原子核が引きずられて振動を始めるので、電流を流せば流すほど熱を持って抵抗が大きくなっていく特性があります。ところが半導体はなぜか逆のことが起きて、熱を持つと電流が流れやすくなる性質があります。

 

 これは、熱を持つと抵抗が増す性質よりも、束縛電子が自由電子に変わっていく影響力の方が大きく現れるからだといわれています。 そこで技術者はいいことを思いついたわけです。自由電子を人間に都合がいいように増やしたり減らしたりして、もっと利用価値の高い物質に作り変えてしまおう。そうして開発されたのが、不純物半導体というものです。

 

 もともとケイ素やゲルマニウムのようなものが半導体として知られていました。これらは不純物を含んでいないので真性半導体と呼ばれます。それらの半導体素材に無理やり別の素材を溶かし込んで価電子がつり合わないように設定されたものが不純物半導体です。

 

 ケイ素の価電子数は4つです。ケイ素の結晶は共有結合をして価電子4つは結合のために使いますので、自由電子になるような余裕はないんですね。ところがここに不純物としてリンを混ぜてみる。するとリンの価電子数は5つですから、1つ余ります。こいつはすぐにでも自由電子になりますので、ケイ素よりもほんの少し自由電子が多い半導体になるわけです。どのくらい混ぜ込むかで、人間は物質特有の量であったはずの抵抗率でさえ、好きに調整することが可能になったんですね。こんな風に電子を増やして作った半導体は、マイナスの電気が多いので、ネガティブ型半導体もしくはn型半導体と呼びます。

 

 逆に、ケイ素に価電子数3のアルミニウムを混ぜ込むと、結合に必要な電子が足りませんので、アルミ原子は、やむなく隣の結合を奪って4つの電子を取り囲む状態を作り出します。奪われた側のケイ素は、また隣の結合を奪って、その先の原子はそのまた先の原子から結合を奪って、という争いが繰り広げられます。遠目には電子が足りない場所はちょうど+の電荷があるように見えていて、その+の電荷が自由電子のように動いて見えます。こういう半導体はポジティブ型半導体、もしくはp型半導体と呼ばれています。

 

半導体のキャリア

 電流が流れるとき、その電流を流すための担い手のことをキャリアと呼びます。(アクセントは「リ」。キャリ↑ア)

 電流でいうところの自由電子です。n型半導体も余分な自由電子によって電流が流れますので、n型半導体のキャリアは自由電子です。自由電子という負電荷がキャリアだからこそネガティブ型という名前が付けられたくらいです。

 

 一方で、p型半導体は、電子があるはずの穴の部分が動いていることそのものが電流の正体です。この「穴」は+の電気のように見えますので、+の穴という意味で「正孔」もしくは「ホール」と呼びます。p型半導体のキャリアは正孔です。キャリアが正電荷なので、ポジティブ型と言われるわけです。

 

 英語では、正の数や負の数をプラス、マイナスで表現する以外に、ポジティブ、ネガティブと表現することもあります。例えば-3を「マイナススリー」ではなく「ネガティブスリー」と読んだりすることもあります。ポジティブ、ネガティブは感情を表す以外にも使える英単語なので、理系用語として機会があれば積極的に使ってみてください。