· 

物基32 物質の三態と潜熱

状態変化

 物質は温度や圧力によって主として「固体」「液体」「気体」の3つの状態をとります。これら3つを合わせて三態とよぶことにします。

 

 実際には、同じ固体であっても結晶構造の違いによって、硫黄のように単射硫黄、斜方硫黄と種類が分かれていたり、炭素のようにダイヤモンド、黒鉛と種類が分かれていたりします。氷であっても12種類もの固体がありますので、大学に入って、より専門的に扱うときには「固相」「液相」「気相」という名称で呼ばれたりもします。固体の状態にある相を固相という、のように使います。物性と言われる分野を専門にする人はそのうち頻繁に耳にすることになるでしょう。

 

 一般には、加熱や冷却などをすることで、状態を変えることができ、それら一つ一つの過程の違いでそれぞれに別の名称がつけられています。例えば、固体を溶かして液体にすることを融解、液体が気体になることを蒸発、などと呼びます。このような変化を総称して状態変化と呼びますね。

 

 中学の頃、それなりのレベルで授業を受けていた人は、これら状態変化には5種類の名称がついていて、図のように表されることを習っていると思いますが、高校の物理で重要なのは、これらのうちの融解蒸発のみに着眼しますので、そのほかの変化についてはあまり話題に出ないまま終わってしまいます。仮に出たとしても理論上は同じことを言っているのに過ぎませんから、特段、気をつける必要もないかもしれません。

 

状態変化と熱

 例えば氷を加熱して、最終的に水蒸気にするような操作を考えます。このとき、氷を加熱して熱エネルギーを与え続けますが、温度変化をグラフにしてみると図のようになります(この図は後ほど変えます)。

 

 図を見ての通り、加熱をし続けているとき、熱エネルギーを与えたのに温度が上がらない区間と、熱エネルギーを与えるとその分温度が上がる区間があります。中学で習ったように、熱エネルギーは「状態変化」「温度変化」かのどちらかにしか利用されることはないように世界が成り立っています。

 

 話はここからです。高校物理になって、どの部分が中学と違うのかというと、この「状態変化」「温度変化」の違いの部分についての知識の深さです。

 例えば0℃で氷が水に状態変化している間や100℃で水が水蒸気に状態変化している間には、加えた熱エネルギーはどこに行ったのかが温度計上には表れてこない。そこで、この時にくわえた熱エネルギーは、どこかに潜って行ってしまった、ととらえて、この間に加えられた熱のことを「潜熱(せんねつ)」と呼ぶことにします。一方で、温度変化している間は、加えた熱エネルギーが明確に温度上昇として現れるので、顕わ(あらわ)という言葉を利用して「顕熱(けんねつ)」と呼ぶことにします。そして、これらが具体的に何Jのエネルギー量なのかを計算しましょう、というのが高校の物理で扱われている部分なんです。

 

▼潜熱と顕熱

潜熱:物質の状態変化に使われる熱エネルギー

顕熱:物質の温度変化に使われる熱エネルギー

 

 

潜熱

 潜熱と顕熱のうち、まずは潜熱について深追いしてみましょう。

 潜熱は状態変化に使われる熱エネルギーですが、状態変化には5種類があることを前に確認しました。なので、潜熱も細かく分類すれば5種類に分けて考えることができます。例えば、固体が液体に「融解」するときの潜熱を「融解熱」、液体が気体に「蒸発」するときの潜熱を「蒸発熱」といいます。

 

 このように、状態変化の名称のあとに「熱」と書けば、潜熱の種類を表す用語になります。つまり5種類のうちの残り3種類は「凝固熱」「凝縮熱」「昇華熱」と呼ばれるわけですね。

 

 蒸発熱気化熱と書いてもいいですか、と生徒に聞かれることがありますが、これは避けてください。よくよく調べてみると、中学でも高校でも、実は教科書には「気化熱」は用語として登場していないと思います。なんとなーく聞いたことがあって、なんとなーく覚えていて、かつ意味もほぼ正しくとらえているので、常識のように使っている人も多いと思いますが、気化とは単に「液体が気体に変化すること」を表すだけでなく、液体表面で液体が気体になる蒸発と、液体内部で液体が気体になる沸騰とを両方とも表しています。そういうわけで、専門の人からすると蒸発熱と気化熱は、全然違うはなしなのかもしれませんね。教科書通り「蒸発熱」として覚えておくことをお勧めします。

 

気化:液体が気体になること。蒸発と沸騰とがある

 蒸発:液体表面で液体が気体になること

 沸騰:液体内部で液体が気体になること

 

 これらの潜熱のうち、「融解熱」「蒸発熱」の2つが物理基礎の範囲でよく扱われるものです。それぞれの意味は、

 

融解熱:融点の固体1gを液体にするための熱量

蒸発熱:沸点の液体1gを気体にするための熱量

 

です。潜熱を\(L[J/g]\)として、熱量\(Q[J]\)を

 

▼潜熱

\(Q=mL\)

 

と表すことができます。質量mの単位を[kg]ではなく[g]でとりますので、今まで力学でさんざんkg単位でやっていたものが、ここではgになっているという点に気をつけてください。ただ、ほぼg単位で出題されるので、わざと設定を変えて出題されない限り、だいたい間違えないと思います。