運動方程式
運動方程式
\(ma=F\)
\(m\):質量[\(kg\)]
\(a\):加速度[\(m/s^2\)]
\(F\):加えた力の合力[\(N\)]
運動の第二法則を公式化すると,こんな感じになります。力\(F\)が2倍,3倍と増えると,加速度\(a\)も2倍,3倍と増える。逆に,同じ力を加えているのであれば,質量\(m\)が2倍,3倍と増えると,加速度は\(\frac{1}{2}\)倍,\(\frac{1}{3}\)倍と減っていきます。
人間にもこの法則は成り立っていますので,理論上の話をするなら,例えば体重\(50kg\)の人と体重\(60kg\)の人が同時に\(100m\)を走ると,同じタイムでゴールするには体重\(60kg\)の人の方が\(1.2\)倍の力を出さないといけないわけです。だからスポーツ選手なんかは,筋力\(F\)を大きくする練習だけじゃなくて,脂肪を減らして自分自身の質量\(m\)を小さくすることで,できるだけ大きな加速度\(a\)が手に入るようにトレーニングするわけですね。
この公式には学問上の慣例があって,左辺に\(ma\),右辺に\(F\)を書くこととされています。これは理学研究において,右辺は現象の原因,左辺は現象の結果を表すことが慣例とされているからです。論理の順番として,右辺が起きるから左辺の結果が見られる,ということになります。
つまり,力を加えたから加速度が生じる,というのが\(ma=F\)で,これをうっかり\(F=ma\)と書くと,加速度が生じたから力が生まれた,という論理になってしまうわけです。物事の思考には論理が大切です。「雨が降ったから傘が売れた」ことと「傘が売れたから雨が降った」ことが同じではないように、物理の数式の表記の仕方にも間違いがあれば違和感を感じるようになってほしいです。
数式上や採点上では問題がないので,逆に書いたまま教えている参考書も多いですが,おそらく,複数の名立たる大学教授らが監修した教科書では,どの出版社のものも\(ma=F\)で公式化していると思います。一度自分の教科書も見返してみてください。
繰り返しになりますが,採点上は問題がないことなので,気負って左辺と右辺を間違えないようにしよう!というほどのものではありません。せいぜい専門家から見たら気持ち悪い式だなあと感じるくらいです。
運動方程式の立て方
運動方程式を立てるときは以下の手順で立てると楽になります。
step1:力を作図
⇒まず重力を作図。そのあとで接触力をもれなく作図
step2:力の大きさを記入
step3:軸を設定し、軸に対して斜め向きの力は分解
step4:加速度の正の向きを設定
step5:記入した力に正負を記入
step6:物体ごとに立式
例題
図のように、\(1.0kg\)のおもりを鉛直上向きに\(12.8N\)で引き上げた。重力加速度の大きさを\(9.8m/s^2\)とする。
(1) 重力の大きさは何\(N\)か。
(2) 加速度の向きはどちらか。
(3) 加速度の大きさは何\(m/s^2\)か。
[解答]
(1) 重力は\(W=mg\)から計算します。
\(W=mg\) より
\(=1.0×9.8\)
\(=9.8N\)
(2) ここからが運動方程式の問題ですね。ステップに従って解いてみることにします。
Step1:まず作図しましょう
問題の図に初めから作図がされていても、必要な力を全て描いているとは限りません。こういう問題のときに、よく重力の作図を忘れがちなので、注意しましょう。
Step2:力の大きさを記入
重力の大きさを(1)で求めています。力を作図したからには、その値を書いておくのが自然ですね。
この問題の場合は値を書いていますが、問題によっては、値が分からないときもあります。そういう場合は文字でもいいので、作図したら矢印の近くに文字か値かを書くようにします。
Step3:軸の設定
設定するも何も、縦軸しか考える必要はなさそうですので、これは飛ばします。
問題によっては斜め向きの力が出てくることがありますが、そういう場合には縦と横に分解してから考える必要がありますね。
Step4:加速度の正の向きを設定
この問題では、おもりはどちらに動くでしょう。おそらく10人が10人とも、鉛直上向きに進むと予想すると思います。なので、鉛直上向きを正としておきましょう。別に鉛直下向きを正にしてもかまいません。計算上の符号が逆になるだけで、最終解答は同じになります。
Step5:力の正の向きと負の向きを決める
鉛直上向きを正としましたので、上向きに引き上げる力\(12.8N\)は、厳密には\(+12.8N\)という意味ですね。一方の重力は鉛直下向きの力ですので、\(-9.8N\)として考えてやると正しい意味になります。
それぞれの力に「+」「-」を書きこめば十分ですが(もっと言えば「+」は省略できるので「-」だけ書けば十分ですが)、確実に点数になるまでは、図のように符号をマルで囲んでやって、強調しておくとミスは減ると思います。慣れてきて、確実に得点化できるようになってから我流に崩していくのが良いと思いますよ。
Step6:立式する
ここまでやって、ようやく立式に進むことができます。
\(ma=F\) より
\(1.0×a=12.8-9.8\)
\(a=3.0m/s^2\)
\(m\)は質量です。問題文に\(1.0kg\)と書いてあるので、それを代入しましょう。
\(a\)は加速度です。今求めたいのは加速度なので、ここに何かを代入することはありません。
\(F\)は合力で、作図したときに矢印の数だけ代入するものがあります。鉛直上向きに\(+12.8N\)、鉛直下向きに\(-9.8N\)の2本の矢印があるので、それらを右辺に代入します。
鉛直上向きを正として、答えも「+」になりましたので、
(2) 加速度の向きは鉛直上向き
(3) 加速度の大きさは\(3.0m/s^2\)
です。
立式と代入さえしっかりできていれば、計算自体は簡単に進められるはずです。なので、この運動方程式を分野で一番勉強すべきことは、実は計算ではなくて、作図と立式までの流れなんですね。
問題集を解くときに、作図から逃げている人や、解いた問題を採点するときに作図に関して採点も赤入れもしないクセがついてしまっている人は要注意です。ほぼ作図の問題だと思ってもらってもいいくらいです。
作図は大切にしましょう。