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原子2 陰極線

放電

  放電には気体放電真空放電火花放電などが知られています。気体放電、真空放電は極板間の状態が真空なのか、何か気体が含まれているのかによって名づけられていますが、火花放電は起こる現象が由来となって名づけられています。なので、気体放電で火花放電が起きた、というような表現をしてもいいわけですね。

 

 真空放電は極板間の状態を真空にして行う放電だと勘違いしそうですが、ここでいう「真空」とは希薄な気体のことを表していて、JISの規格では「大気圧より低い圧力の気体で満たされている特定の空間の状態」と定められています。だから\(0.1atm\)程度の圧力であっても真空とみなして良いわけです。

 

 これらの実験をするために用いられる真空放電管にも様々な種類があって、放電管の圧力が\(10^{-4}atm\)以下くらいで使うものをガイスラー管、\(10^{-6}atm\)程度で使うものをクルックス管といいます。

 

陰極線

 真空放電をさせると、陰極から出た正体の分からない放射線が陽極側に進み蛍光を発します。この何かよくわからない放射線は陰極から放射されているので、ドイツの物理学者ゴルドシュタインによって陰極線と名付けられました(1876年)

 

 後々の実験で、この陰極線の正体は電子であることが分かり、今では陰極線のことを電子線とも呼んでいます。

 

 陰極線が発見された当時、陰極線の正体が何であるか様々な実験が行われました。この時期、物理学者の間では2つの流派に分かれて研究をしていました。

 陰極線と名付けたゴルドシュタインらは陰極線の正体が新種の電磁波の一種であると仮定し研究を進めました。また、別の流派として、振動数の単位でも知られるヘルツらは、陰極線が何らかの粒子であると仮定して研究を進めていました。

 彼らの研究によって陰極線について次のような性質がわかりました。

 

 (Ⅰ) 陰極板から垂直に出て直進する。

 (Ⅱ) 電場や磁場によって軌跡が変化する。

 (Ⅲ) 軽い金属板に当てると金属板が動く。

 (Ⅳ) 以上の性質は、陰極板に用いた金属の種類や、放電管内部の気体の種類とは関係しない。

 

 これらの実験から、比較的早い時点で陰極線は負の電気を帯びていることが知られていましたが、正体は不明なままでした。この正体を明らかにする実験として、中でも(Ⅲ)の実験結果は大きなものでした。陰極線が波であると仮定すると、波が当たると物体が動くという少し無理のある説明になります。陰極線が粒子であるために、粒子が衝突して物体が動く、という説明をした粒子派の物理学者のほうが有利になった実験でもありました。

 

 すると、次に気になるのは、この粒子の質量がいったいいくらであるかということと、電気量がいったいいくらであるかということでした。これについて答えを出したのはJJトムソンです。トムソンは電子の比電荷を求め、その大きさを\(1.76×10^{11}C/kg\)と算出し、これをもって陰極線の正体は明確に電子という粒子であると示されることになったわけです(1897年)