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万有引力6 万有引力による位置エネルギー

万有引力による位置エネルギー

まずは結論と小手先の暗記術から。

 

万有引力による位置エネルギーの式は

 

 \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

\(G[N・m^2/kg^2]\):万有引力定数

\(M,m[kg]\):天体(物体)の質量

\(r[m]\):天体間の距離

 

 

です。万有引力の公式 \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) との違いは、分母が\(r\)か\(r^2\)かということと、符号が\(+\)か\(-\)かということの2か所です。

 

あまり正確ではない説明ですが、まずは式のデザインを頭に入れておかなければいけませんので、簡単な覚え方を示しておきますね。

 

 

▼公式の「大きさ」を編み出す

重力\(mg\)から位置エネルギー\(mgh\)を出すときには、高さ\(h\)をかけ算します。これと同じように、万有引力でも、

 

 \(U'=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) \(×\) \(r\)

 

 \(U'=G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

としてしまえば、とりあえず覚えておきたい式の形にたどり着きます。左辺を\(U'\)としているのは、本来の\(U\)ではなく符号が逆転しているので、同じ文字を使いたくなかったためで、ダッシュをつけて表記しなければいけないとか、そういうルールがあるわけではありません。

 

 

▼公式の「符号」を編み出す

位置エネルギー\(mgh\)の\(h\)は、通常、地面を基準面として、そこから上向きに高さいくらか、と考えることが多いですね。ですが、たとえばビルの屋上を基準面として、「屋上から下に○○\(m\)」のように考えるときには、\(h\)を負にとるルールになっています。

高さにはマイナスも可で、そのため位置エネルギーにもマイナスの値があってもいいわけです。

 

さて、今回、万有引力の位置エネルギーを考えるときには、どこを基準面とするのがいいでしょうか。地表からそんなに離れていないところなら、地面が基準面でもよさそうですが、もっとずっと上空、そうですね、月にぶつかりそうなくらいを考えましょうか。

このときの基準面はやはり地球の地上にした方が良いでしょうか。それとも月の地表?地球と月との中点でもいいかもしれません。いや、太陽の重力も考えれば太陽の表面の方が物理学的に正確なのでは?

 

悩みますね。これらすべての天体に共通して存在できる「地面」に相当する場所を基準面に設定しましょう。それは、「無限遠」です。どの天体から見ても上空の果ての果てですから、共通だとしてもいいと思いませんか?

 

無限遠を基準面にとれば、どの天体も、基準面の下に位置することになりますので、符号はマイナスとなるわけです。

 

 \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

こうして、万有引力による位置エネルギーの式の形は頭に入れることが出来ると思います。

 

 

▼万有引力による位置エネルギー

 

 \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

\(G[N・m^2/kg^2]\):万有引力定数

\(M,m[kg]\):天体(物体)の質量

\(r[m]\):天体間の距離

 

万有引力による位置エネルギーの導出

万有引力による位置エネルギーの導出では、どうしても積分の考えを使わざるをえません。なので、物理公式の中では導出の仕方を覚えるのを避ける人が多いように思います。

入試作問者は、その穴をねらって出題してきますので、意外にもこの公式の導出過程はある程度のレベルの大学であれば頻出の区分に入れてもいいのかもしれません。

 

積分を利用するか、区分求積法を使って積分自体は使わずに積分したことにするか、どちらかのパターンでの出題となりますが、区分求積法で物理を学ぶと、物理も数学も重たすぎて、全然頭に入ってこないので、ここでは積分をストレートに使う導出説明にします。概要がつかめたら教科書のコラムなりに書いてある、区分求積法で導出する万有引力のエネルギーも目を通しておくと良いと思いますよ。

まず、図のように文字や配置を設定しておきます。

ここで、物体にはたらく万有引力は軸の向きを正とすれば、

 

 \(F=-G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)

 

です。正のとり方の都合上、マイナスがついています。

 

 

位置エネルギー\(mgh\)を導出するときには、重さ\(mg\)の物体を\(h\)だけ持ち上げたときにした仕事が位置エネルギーの大きさに相当する、と学びますので、万有引力の場合でも同じ方法で導出します。

 

符号を意識して、きちんと書くと、鉛直下向きに重さ\(mg\)がかかる物体を、鉛直上向きに外力が引き上げます。外力は鉛直上向きに\(mg\)の力で、鉛直上向きに\(h\)だ引き上げるので、位置エネルギーの符号は正となり\(mgh\)となっています。

 

 

万有引力がかかる物体も、これから外力が無限遠までもち上げたとして、その時にした仕事を求めれば、位置エネルギーを導出できるはずです。

外力が物体を引き上げる力は、軸の正の向きになるので、

 

 \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)

 

です。重力のときと違うのは、\(mg\)のように一定値をとるのではなく、地球から離れれば離れるほど万有引力の大きさは小さくなるので、引き上げるのに必要な外力の大きさも小さくなっていきます。グラフにすると次のようになります。

力×距離が仕事の大きさですから、縦軸が力、横軸が距離のグラフを用いると、グラフの面積から仕事の大きさを求めることができます。

グラフの横軸に距離\(r\)をとりました。ここから無限遠までの面積を求めるには、積分を使うしかなさそうです。

 

 \(W=\displaystyle \int_r^{ \infty } F(r) dr\)

 

 \(=\displaystyle \int_r^{ \infty } G\frac{Mm}{r^2} dr\)

 

\(G\)と\(Mm\)は定数なので、積分の外に出しておいて、

 

 \(=GMm\displaystyle \int_r^{ \infty } \frac{1}{r^2} dr\)

 

 \(=GMm\displaystyle \int_r^{ \infty } r^{-2} dr\)

 

 \(=GMm \left[ -r^{-1} \right]_r^{\infty}\)

 

 \(=GMm \left[ -\displaystyle\frac{1}{r} \right]_r^{\infty}\)

 

 \(=GMm \left[ \left(-\displaystyle\frac{1}{\infty} \right) - \left( -\displaystyle\frac{1}{r} \right) \right] \)

 

 \(=\displaystyle\frac{GMm}{r}\)

 

となりました。難しく式を追いかけているように見えますが、やっていることは、\(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)の力で距離\(r\)だけ引っ張ったので、「力×距離」より、\(G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)になった、という意味合いの式変形です。すばらしくないですか、この積分導出の丁寧な丁寧な途中過程。誰かほめてください。

 

さて、これが外力がした仕事です。「地表面が基準面なら」これで導出は完了ですが、今回は無限遠が基準面です。もう少し加工が必要です。

 

高さ\(r\)での位置エネルギーを\(U_r\)、無限遠での位置エネルギーを\(U_{\infty}\)としておきます。すると、元の位置エネルギーに仕事を加えて、無限遠での位置エネルギーまでもち上げた、という式は、

 

 \(U_r+W=U_{\infty}\)

 

となります。よって、

 

 \(U_r=U_{\infty}-W\)

 

無限遠での位置エネルギーは、無限遠が基準面だとすれば、基準面の高さは\(0\)と決めていますから、エネルギーも\(0\)としていいので、

 

 \(U_r=0-W\)

 

よって、

 

 \(U_r=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

が導出されるわけです。これでようやく導出終了となります。

 

 

▼万有引力による位置エネルギー

 

 \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)

 

\(G[N・m^2/kg^2]\):万有引力定数

\(M,m[kg]\):天体(物体)の質量

\(r[m]\):天体間距離